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「おい、あんた! 聞こえるか? おい!」  耳元でがなりたてるようなその大声と共に、私は目を覚ました。一瞬私は、自分が今どこにいて、何をしているのかわからなかったが、私を現実に引き戻そうとするその声に逆らい、自然ともう一度夢の世界に戻ろうとした。まだ目覚めたくない、もう少し寝ていたいと思ったのだ。それは、しこたま酒を飲んで、酩酊した後に気持ちよく道端で寝転がっているかのような、そんな状態に近かった。  そしてその時、突然ふっと我に帰った。本当に自分が、酔っ払ってそこらの道端で寝てしまったのではないかと思ったのだ。 「ああ、すいません、大丈夫です……」  私は、自分に声をかけてきたその主に謝りながら、そこから起き上がろうとした。が、出来なかった。私の体は、何かに押さえつけられているかのように、立ち上がろうとしたその場所にもう一度座り込んでしまった。これは本当に、相当酔っ払ってしまっているのかも。そう思った私は、なんとか眠る前の記憶を取り戻そうと思ったが、どこで誰と飲んでいて、こんな状態になったのか、全く思い出せなかった。 「おい、無理すんな。まあ、とりあえず目は覚めたんだな」  先ほど私の眠りを覚ました男の声が、再び聞こえた。私はそこでようやく、まだ寝起きではっきりとしない視界の中に、その男の顔を見た。その顔に見覚えはなかった。私が今までに会ったことのある人物ではなかった。酔いつぶれていた私を心配して、通りがかりに起こしてくれたのだろうか。  私はもう一度、大丈夫ですと、そして起こしてくれたお礼を言おうと、男に向かって軽く右手を振ろうと思ったのだが。私の手は全く動かなかった。まるで縛り付けられているかのように……。いや。私はそこで、はっきりと認識した。私の手は、本当に縛り付けられていた。私の両手は、イスの手すりに、手錠のようなものでがっちりと固定されていたのだ。 「な……なんだこれは?」  私は驚いて、声をかけてきた男を見たが、そこで更なる驚きが私を襲った。その男は、鉄製のイスに座り、両手と両足首それぞれに手錠をかけられ。その手錠の片方は、イスの手すりと足に、がっちりと固定されていた。明らかに、何者かに監禁されているといった感じだった。そして、私がその男と全く同じ状態になっているのだとわかるのに、さほど時間はかからなかった。私とその男は、両手足をイスにくくり付けられ、二人きりで監禁されていたのだ。
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