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結局、その日は一日悠から連絡も無くて、合えるわけでもなく、一日が過ぎて行った。連絡しようかな、と何度も迷ったけど結局連絡仕舞いで。
「(…楓?)」
学校帰りにフレッドと一緒に寄ったスーパーの中、ただぼんやりと歩いてたら、フレッドに腕を掴まれた。
「(どうしたの?ずっと上の空で。)」
「(な、何でも無いよ?イギリスのスーパー初めてだから…)」
「(日本とだいぶ違う?)」
ふふって笑うと私の背中を押して、パスタの麺が並ぶ棚の前に立たせるフレッド。
「(楓はどの太さのパスタが好き?)」
「(え…?わ、私はどれでも大丈夫だよ?)」
「(いいんだよ。楓の好みを言えば。俺は楓の好みが知りたいの。と、言うか、ケイト達もだと思うよ?)」
ケイトさん達も…?
「(楓を知らなきゃ、自分の事も知ってもらえないからさ。仲良くするって事はそう言う事でしょ?だから、楓はそう言う所を遠慮しないで)」
そ、そっか…そうだよね。
改めて目の前のパスタに目をやったら入った、平たいパスタ。
これ…悠が連れてってくれたあのレストランで初めて食べたパスタだ…。
本当に美味しくて感動してたら『楓さん、そんな美味しい?』って眉下げて笑ってたっけ…。
「(…私、この平たいのが好き。)」
私が指したのを手に取ると
「(フェットチーネか…いいね、俺も好き。トマトクリームで平気?)」
「(その調子)」って軽くウィンクしてくれるフレッド。
チコと初めて話した時の感覚に似てるな。
何か…楽しいかも。
「(フレッドは何が好きなの?)」
「(俺はね、フェットチーネも好きだし、細めも結構好きかな。辛めペペロンチーノとかね)」
「(へえ…それも食べてみたい。)」
「(あ、じゃあ二品パスタつくる?)」
「(私も作るの手伝うよ)」
「(ありがと。じゃあ、後は…。)」
…その日は、夜に帰って来たケイトさん達も交えて、宿題をうっかり忘れちゃう位おしゃべりを楽しんだ。
凄いな…ホストファミリーって。
不安も心配もこうやって軽くしてくれるんだね。
悠の所はどうなんだろう。
明日…もし悠に会えたら色々話がしたいな…。
そう思いながら、眠りについた翌日の朝。
スマホのメッセージを知らせる短い着信音で目が覚めた。
『おはよ。今日、昼休み会える?』
悠だ…。
寝ぼけ眼が一気にパチリと開く。
会える…んだ、今日は。
ベッドから飛び起きて、開いたカーテン。鳥のさえずりと、光に反射する綺麗な緑が飛び込んで来て思わずそれに頬を緩めた。
…一日会えない位で凹んでる場合じゃなかったね。
何だか凄く嬉しくて、ヌンに
「(楓、どうしたの?すっごい笑顔~!)」
なんて笑われる程浮かれ調子で過ごした午前中。
約束した時計塔の裏のベンチに行ってみたら、既に悠が腰掛けてスマホを弄ってた。
「お疲れさま」って買って来たコーヒーを差し出したら、顔を上げて眉を下げる悠。「お疲れ」って受け取ってくれてから、隣に座る様に私に促した。
「…随分と機嫌がいいね、楓。」
「そっかな。」
だって、悠と会えると思って…朝からずっと浮かれてはいたもんね。
「そんなに楽しい?フレッドとの生活。」
その言葉に思わず顔を上げた。
「え…?」
「や、昨日、聞いたよ?フレッドから。」
あ…そっか、よく考えてみたら二人は同じクラスだもんね…。
じゃあ、改まって私が言う事でもなかったのかな。
「ステイ先に行ってみたら、フレッドがいたの。」
「凄いビックリしたよ」って笑ったら、眉間に皺を寄せる悠。
「…コーヒー貸して。」
「え?」
「いいから。」
言われるままに、コーヒーを悠に渡したら、悠はそれを自分の横に置いて
「おりゃっ」
「いはっ!(痛っ!)」
振り向き様に、私の両頬を掴んだ。
「ごめん、加減間違えた。つかわざとだけど。」
わ、わざと?!
何で…?!
指を離すと、不服そうにしてる私の頬を擦る悠。
「楓さん、ちゅーしていい?」
「っ?!ダメ!」
「…突然だと嫌だと思ってちゃんと聞いたのに。」
や、そう言う問題じゃなくてさ…外、だから。
~♪~♪~♪
悠のスマホが着信音を知らせたら、スルリと離れる悠の掌。
「…もしもし。ああ、うん。わかった。うん、行く。」
日本語…マミさんかな…。
スマホを切ると見守ってた私の方に少し向き直ってその丸っこい指先を伸ばす悠。私の頬にかかってた髪に触れた。
「髪の毛食ってる。」
「あ、ご、ごめ…。」
慌てて自分で直そうって手をあげたら、「もう取れたよ」って唇の両端をキュッとあげてそのまま、指を髪に通して梳かす様に撫でてる。
「…俺さ、ちょっと暫く忙しくなりそうでさ。」
「う、うん…。」
「会ったりとか…ちょっと難しいかも。まあ、メッセージは送れるかなって程度で。」
そ、そうなんだ…。
「あの…忙しいなら無理してメッセージもしなくていいよ?」
私の言葉に指を動かす手がそのまま止まった。
「…楓はそれでいいの?」
「え…?」
「や、俺が連絡しなくても平気なのかなって。」
平気…では無いと思うけど。
一日会えなくても、今凄い浮かれてるし…不安な事もやっぱり多いから、悠と話せるなら話したい。だけど…悠の邪魔はしたくない。
「…ファミリーさん達もフレッドも良くしてくれるから。」
「……。」
「悠…?」
ジッと私を見つめてる悠が少し寂しく見えて、小首を傾げたら、苦笑いをする悠。
「…聞かないの?『何で忙しいの?』とかさ。」
「あ…。」
「別に興味無いか、俺の事なんて。」
「そ、そんな事は…。」
だって…深入りされるの、悠は嫌だって思うんじゃないかなって…。
「もう行かないと」と悠が言った後、ふわりと唇同士が触れた。
「…出来ればね?俺は最初に楓から聞きたかったかな。フレッドと暮らす事になったって。」
え…?
私が躊躇してる間に「またね」って立ち去ってく悠。
私の判断…間違ってたの?
私…悠の事傷つけた…の?
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