190人が本棚に入れています
本棚に追加
.
悠と時計塔の下で話してから一週間が過ぎた。
本当に全く会えてないし、連絡も取ってないな…。
もしかしたら会えるかもって、朝、早く行ってみたり、昼休みにAC2のクラスに行ってみたりしたけど、悠の姿は一向に見つからなくて。
…忙しいんだもんね、仕方ないよ。
そう諦めてた。
.
午後の授業が休講の日。
ケイトさん達がピクニックに誘ってくれて訪れた大きな公園。
寒い冬とは言え、陽の光に包まれてると何だか温かくて、思わず青い空を仰いだ。
「(あ~…疲れた。)」
フリスビーを終えて先に戻って来たフレッドが隣に腰を下ろす。
「(ねえ、フレッド…悠と最近話す?)」
「(もちろん。同じクラスだし)」
「(何で?)」って可笑しそうに首を傾げるフレッド。
「(う、うん…私、ここ一週間位、悠と全く話してないから…元気かなって。)」
「(全く…?悠、楓と連絡取ってないの?)」
「(う、うん…。)」
「(楓はそれで大丈夫なの?楓から連絡は?)」
心配そうに覗き込むフレッドの瞳が揺れてる。
だ、大丈夫…ではないけど。
「(『忙しい』って言ってたし…。
まあ、付き合う前だって一週間連絡取らないとかザラだったし、その位の事はね…。)」
一生懸命笑顔を作る私に更に心配の色を濃くするフレッド。
「(や、今は彼女なんだからさ…それを一週間もほったらかしって。
良くわかんないけど、日本の恋人ってそんな感じなの?)」
「(さあ…私、付き合うのって初めてだから。)」
思わず俯いて苦笑いしたら「(ふ~ん…)」と相槌を打った後、私の頭の上に掌をポンと乗っけた。
「(楓もフリスビーやろ?)」
「(え?わ、私は…やった事ないから。)」
「(ほら、立って!教えてあげるからさ!)」
躊躇した私の腕を引っ張って立たせたら、軽くウィンク。
「(身体を思いっきり動かしたら、少しは紛れるよ?色んな気持ちがさ!)」
それから日が傾く時間まで、汗だくに成る程4人で走り回って、はしゃいで、うちに着く頃には4人ともグッタリ。
気持ちも少しだけ軽くなってる気がした。
温かいシャワーを浴びた後、フレッドが作ってくれたホットハーブティー。
「(ケイトさん達、映画のナイトショー観に行って来るって)」
「(パワフルだよね)」って笑いながら、二人でソファに腰掛けた。
「(楓、今日で随分フリスビー上達したよね)」
「(フレッドの教え方が上手いから。)」
「(こうさ…)」って投げる真似をしたら、フレッドは満足そうに笑う。
「(何でもさ、やってみると案外すんなり出来たりするもんだよ。)」
ふわりとコップから上がる湯気がハーブの良い香りを運んで
「(一歩踏み出してやるまでが、時間がかかるのかもね、楓は。)」
フレッドの優しい声色が余計に居心地を良くしてくれる。
「(…昔からね。私、人の『輪に入る』って事が苦手で。どんどん変わって行く会話についていけなくて。)」
一口コクリと飲んだそれは、のど元を暖かくしてくれた。
「(一生懸命考えて、やっと答えが出た時にはもう話題が終わってるなんて事しょっちゅうでさ。)」
…悠はそんな私でも、ちゃんと歩幅を合わせてくれてた。
『楓さん、好きでしょ?チロルチョコ』
私の言動一つ一つをちゃんと拾って…。
『キキになるなら、必要でしょ?』
悠の笑顔を思い出したら、少し視界が滲む
会いたい…な、悠に。
深く吐き出した息が湯気を少しだけどかしたら、またハーブの香りが鼻をくすぐった。
「(楓…?)」
「(あ、ごめんね、変な事話して)」
「(…悠の事思い出してた?今)」
図星をつかれて思わず目を丸くしたら、フレッドがクって笑う。
「(そんなに、溜息ばっかりカップに振りかけてたら、アイスティーになっちゃうよ?)」
そ、そんなに溜息出てたかな…。
「(…連絡してみたら?)」
「(え…?で、でも忙しいって…。)」
「(返す、返さないを判断するのは悠の役目!楓はそれ、気にしちゃだめでしょ)」
そ、そう言うものなの…?
「(やってみたらさ、案外うまくいくかもしれないでしょ?フリスビーと同じ!)」
「(じゃあ、そろそろ寝よっか)」って言われて飲み干したハーブティーが更に口の中を爽やかにしてくれて
連絡してみようかな…。
部屋に戻ったらすぐにスマホを手にしてた。
.
最初のコメントを投稿しよう!