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ふわふわした幸せの気持ちのまま
フレッドと家を出た次の日の朝
一週間ぶり位にバス停でマミさんと会った。
「(マミ!おはよ!)」
「(ああ、フレッド、おはよう!)」
フレッドが軽く挨拶しながらマミさんの隣に立つ。
今日は悠と待ち合わせしてないのかな…。
その横に身を隠す様に並んだら、すかさずフレッドが私の背中を軽く押した
「(楓!マミとは話した事ある?今AC2で一緒に授業受けてんだよ)」
押し出された先でマミさんと目線がぶつかる
「あ…っと…。」
何をどう話していいのか分からなくて、言葉に詰まったらフイッとそのまま目を逸らされた。
「(フレッド、今日の課題やった?)」
「(やったけど合ってるかはわからない)」
「(なにそれ!)」ってケタケタ笑ってるマミさん。
「(やけに機嫌がいいじゃん)」
眉を下げたフレッドに今度は含み笑い。
「(ちょっとね)」そう言うとちらっと私を見てから、バスに乗り込んで行った。
あんなに機嫌がいいの、初めてみたかも…。でも、あれが本来のマミさんなのかな?
そんな違和感を抱えたまま過ごした午前中の授業が終わって、ヌンが珍しく欠席で一人ランチかな…って思いながらいつものカフェにチキンサンドを買いに行ったお昼休み。帰り道に同じクラスのソフィアにたまたま合って「(向こうの校舎の裏に大きな芝生のグラウンドがあるから、一緒にお昼しない?)」って誘ってくれた。
案内されて行ったグラウンドはだだっ広い芝生が公園みたいで、風がキモチイイ感じの所。
クラスの数人がそこに集まってて、私とソフィアを見つけたら、皆ニッコリ笑って手を振ってくれた。
…うちのクラスの人達って、のんびりだけど穏やかで優しい人が多いよね。
そんな事を思いつつ「(誘ってくれてありがとう)」って言いながら輪に入ろうとしたら、少し離れた所にある、一戸建て型のカフェテリアが目に入った。
瞬間、ドキンって大きく心臓が飛び跳ねる。
入り口の隣のウッドデッキにあるテラス席。
その中央の一番日当りのいい、最高のポジション。
そこには、仲良く笑いながらランチをしている
悠とマミさんの姿。
悠…お昼は『先約がある』って言ってたよね。
それって、マミさんとランチする事…だったんだ。
あまりにも私がずっと直視していたからだと思う。隣のソフィアが気が付いて同じ方向に目をやった。
「(へー!珍しい!両方日本人のカップル!)」
「(…え?)」
「(あのカフェのあそこの席ね?『恋人席』って呼ばれててね?
あそこでランチすると、ずっと仲良しで居られるらしいよ。
でも凄い人気で、地元の大学生が使っちゃう事が多いから中々予約取れないみたいだけどね~。予約自体も前の日からしか受け付けないし。」
そんな所でマミさんとランチ…。
他の景色がモノクロになる中で、悠の笑顔だけがより鮮明になる。
…悠、すごく楽しそう。
いっぱい笑ってる。
いっぱい…話してる。
私なんかと居るときよりずっとずっと…。
昨日の電話でのやり取りを思い出す。
…眠そうで辛そうだった。
全然…楽しそうじゃなかった。
居たたまれなくなって、ソフィアに「ごめん」って謝ってその場を後にする。
ひたすら走った先で辿り着いた、この前悠と待ち合わせした時計塔の下。
壁にもたれたら、そのままその場に座り込む。いつの間にか視界がぼやけてて涙がいっぱい頬に跡を残してた。
私は…あんなに悠を楽しませてあげられない。
あんなに笑顔にはできない。
いっつも悠を困らせたり、無理させたり。そうやってして貰ってばっかりで悠に何も返せない。
やっぱり私に『悠の彼女』なんて無理なんだよ。
『悠に逢える』
『悠と話が出来た』
そうやって、ふわふわ片想いしてるのが一番合ってるんだ。
込み上げて来る涙を拭って、気持ちを落ち着けようって深呼吸して息を吐き出したら、鐘が午後の始業を知らせた。
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