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次の日、ケイトさん達の好意に甘えて、学校を休んだ。
ヌンから『私の風邪ウツしちゃった?!』ってメッセが入ってて、それに『大丈夫だよ!』ってメッセを返して。
それ以外は、お布団の中でゴロゴロ、ウトウトしながら、窓の外のさえずる鳥の声に耳を傾けて一日を過ごしていた感じ。
…久しぶりだな、こんなにゆっくりするの。
特に最近は、色んな事に必死だった気がするから。
瞼を閉じ浮かぶチコといつも待ち合わせしてた、大学の図書館。
私にはゆっくりした時間がいっぱい必要なんだな、きっと…。
チコとのトーク画面を開いたら、大学の図書館の外観がバックに出て来て、『楓が居ない間に、絶対読破!』ってチコのメッセと分厚い本の画像が最後にあった。
チコ…会いたいな。
枕に顔を埋めると、今度はあの古着屋さんの風景が目の前にありありと浮かぶ。
葵さんと仲良くやってるかな…チコ。
まあ、ケンカなんかしたら、ミキホさんが黙ってない…と言うより、喜んじゃうから、葵さん、意地でもケンカしないかな。それに、チコの事が大好きだもんね、葵さん。端から見ててもそれが分かる。チコは大切にされているなって。
チコもそれを分かってて、それに甘えてる感じがして…いつもいつも葵さんといる時のチコはいい顔してる。
ふと、またカフェで笑い合ってる悠とマミさんが浮かんだ。
二人とも…凄く楽しそうだった。
誰が見たって、口を揃えて言う位『お似合い』で。私だってそう思ったもん…。
『(悠の事考えてるときの楓は苦しそう)』
…フレッドの言う通りかもしれない。
『(もう、悠の事忘れちゃえば?)』
忘れてしまえばいいのかもしれない。
そうしたら…この苦しさから解放されるのかな…。
顔を埋めた先の枕カバーから柔軟剤の良い香りがしてきて、いつの間にか微睡みに引きずられていたらしい。
「(…楓?)」
気がついたらベッドの横にフレッドが立っていて私を見下ろしていた。
「(ふ、フレッド?!)」
「(ごめん、起こして。)」
「(…ううん。何か、朝からウトウトしっぱなしだったから。)」
起き上がって、ベッドサイドに腰掛けた私に、フレッドは変わらず優しく微笑む。
「(今さ…悠が来てんだけど。)」
けれど、私はフレッドの一言に鼓動がドキンッと強く跳ねた。
「(…どうする?)」
どうするって…。
『会いたくない
会うにしても、もう少し時間が経って気持ちの整理をつけてからがいい』
そう瞬時に思った自分が居て、戸惑った。
私…一体、気持ちの整理をつけて“何“を悠に話そうとしてるの?
自分が考えてた事に恐くなって、余計に打つ脈が早くなる。
思わず俯いて少し唇をかんだ。
「(楓…?)」
大きめの掌が頭に乗っかって目の前に優しい蒼い瞳が現れる。
「(今日の夕飯さ、楓が好きだって言ってたチーズリゾットかナポリ風のピザにしよっかなって思うんだけど、どっちがいい?)」
「え…?」
予想外の質問にきょとんとした私と同じ目線にしゃがむフレッド。
「(ケイトさんが美味しいローストチキン、買って来てくれるんだって。だからね?ピザかリゾット。)」
「(楓はポテトも好きだよね?)」って言いながら歯を見せてイタズラっぽく笑うフレッドに思わず私も頬が緩んだ。
「(…ほらね?)」
「(え…?)」
「(楓は笑ってる顔、最高に可愛い)」
「なっ…。」
カアッて身体が熱を持ったら、ポンポンってフレッドの掌が頭の上で軽く弾んだ。
「(楓は楓で居ればいいんだよ。不安になる事なんて何にも無いでしょ?ありのまま、感じた事を考えた様に話せばいいんだよ?少なくとも、俺はそれを望んでる。)」
フレッドは、そのまま立ち上がると「(ま、とびきり美味い夕飯作るからさ!)」って部屋から出て行く。
優しい…な…フレッドは。
ザワザワして、恐かった心が今は少し落ち着きを取り戻してる。
ありがとう…フレッドが居てくれて、私、本当に…
瞼を伏せて俯き、フウッて息を吐き出したらまた頭にポンって掌が乗っかった。
…フレッド?
見上げた瞬間、笑顔のまま表情が固まってしまう。
そこには「案外元気そうだね」って眉下げて笑う悠の姿。
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