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二年間の片想いの末
『好きだよ』
あの桜の木の下で悠と想いが通じ合ってから数週間後。
イギリスへの短期留学に出発する為に空港を訪れた。
「…まだ少し時間あるね。どっか店でも覗く?あ、本屋とか。楓の好きそうな絵本あった気がする。」
「う、うん…。」
スーツケースを預けて、一旦集合して。
先生から手荷物検査場を通る時間がもう一度言い渡されて、チケットが配られて…解散した途端に私の手をギュウッて握る悠。
や…構わないんだとは思う…んだけど。
一応その…『彼女』になったわけだし。
「ちょっと!あれ!」
「えーショック!カッコいいコ居てラッキーって思ったのに…。」
「っていうか、兄弟とかじゃなくて?信じたくない…」
握られた途端に、周囲から上がったちょっとした驚きの声。
違う学部のコ達が最初に集合した時から悠を見つけてキャアキャア言ってたもんね…。チェックインの手続きで並んでる時に話しかけられてたし、悠。
『何学部?』
『経済』
『英語既にペラペラそう~』
『ぺらぺらではないけどさ。留学すんだから、少しは勉強しとかないとって話でしょ。』
『そっか!分からなかったら教えて~』
『や、さっき文学部の英米学科って言ってたじゃん。こっちが教わりたいわ。』
『えー!教えるよぉ!いつでも言って?』
『そりゃどうも。ほら前、進んだよ?』
…ずっとね?
大人しく隣でなるべくそのこそばゆい雰囲気から外れる様にそーっとしてたよ?
私…入らない方がいいんだろうし。
なのに…さ。
「ほら、行くよ?」
悠は、さも当然の様に、指を絡めて手を握り直すと本屋の方へと私を引っ張って歩いていく。
「お、お友達になった人と一緒にいかなくていいの?」
「はっ?友達?」
「さ、さっき…話してたじゃん。」
「あんなのただの社交辞令でしょーよ。」
そ、そうなんだ…。
足を踏み出した背中から聞こえた彼女達の声。
『やっぱりイケメンはちょっと趣味も変わってるんだね…。』
『素朴が好きって事かな。まあでも、仲良くなったらチャンスはあるよね。』
…やっぱり私が悠の彼女って不思議なんだろうな。
まあ、少しはマシになって来てるみたいだけど、『ネクラ』じゃなくて『素朴』だって言われたし。
そんな事を考えながら、本屋で本を買ってから行った展望台。
「悠は買わなかったね」
「俺はひたすら音楽でも聞いて寝てます。」
「寒っ!」って言いながら、悠は繋いだ手ごと自分のポケットに突っ込む。
「おっ!あの飛行機黄色!」
「う、うん…。」
それに戸惑いながら返事をする私。
彼女…なんだもんね。
そうだよね…
それに、手を繋いでたのは彼女になる前からだし…。
「楓。」
呼ばれて少し顔を上げたらフワリと唇が重なった。
「?!!!!」
「…だからさ、驚き過ぎだから。」
お、驚くよね?
だ、だって…こ、こんな人が居る…あ、あれ?
周りをキョロキョロしたら……誰もいない。
「や、さすがにその位は気をつけるよ?」
繋いでない方の腕で口元隠して笑う悠。
「そ、そう言う問題じゃ…。」
「ほら、顔真っ赤なおサルさん、そろそろ行きますよ?」
ヨロヨロ歩く私を楽しそうに引っ張って歩き始めた。
……何となく。
告白をしてくれたあの日から、悠に違和感を感じる。
相変わらず優しくて、悠と一緒に居る時間は心地良くて。それは変わらないんだけど。
手を繋いだり、キスしたり…抱き締められたり。どうしても、悠が彼氏って事に慣れない感じがして、戸惑いが消えない
彼氏って…こういうものなのかな。
今までの友達同士の時みたいな距離感じゃいけないの?
…何もかもが初めてで、全くわからない。
不意に出国数日前の事が頭を過ぎった。
「いよいよ出発なのね~。
楓ちゃん、あの有名な紅茶のデカフェのアールグレイのやつ買って来て!イギリスにしか売ってないのよ~」
訪れたいつもの古着屋さんでミキホさんが目をランランと輝かせたら葵さんが苦笑い。
「お前なあ…旅行じゃねーんだからさ…。」
「あら、同じよ。どうせ悠ちゃんとデートがてら、街を散策したりするんでしょ?あー良いわね!ロンドンの街をデート。素敵だわぁ」
「あ、あの…ミキホさん。大学があるのは郊外でロンドンの街にはあまり行かないかもなんです。」
「あら、そうなの?じゃあ、郊外をピクニックとか?いいわね、それも!」
すっかり私と悠のデートをシュミレーションして楽しんでるミキホさん。
「で?当の悠は今日バイト?」
葵さんがそんなミキホさんを呆れながら「気にしないでね?」ってメガネを外す。
「はい…留学前最後のバイトらしくて。もしかしたら、その後先輩に飲みに連れてかれるかもって言ってました。」
「んも~悠ちゃんはどこに居てもモテるわねえ…楓ちゃん、これから色々大変ね!」
い、色々…。
そ、それはまあ…覚悟してはいるけど。今までも悠は人気者で、「どうしてあの子と一緒にいるの?」とかよく言われてたし。
「今までもそうでしたから…」
「あら!そう言う事じゃないわよ。楓ちゃん…『彼女』はね?今までとは違うのよ?」
ミキホさんの真剣な顔に思わずごくりと生唾を飲んでしまう。
「おい、あんま変な事吹き込むとまた悠に睨まれんぞ。」
「あらあ!いいわね~。悠ちゃんに睨まれるの!」
今までとは…違う?
「まあ、でもさ、逆も言える事だろ。悠にも。」
「あら、そっちはあんまり問題ないんじゃない?なんせ、悠ちゃんは楓ちゃんが好きでしょうがないもの!」
「げほっ!」
思わず飲みかけてたミルクティーを穴違い。
「なっ何を…。」
「や、まあ、俺もそこは否定はしないけどさ。」
あ、葵さんまで…。
ハンカチで口元を慌てて抑えたら、ミキホさんは私を見てニッコリ笑った。
「若いっていいわね!」
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