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◇
楓の部屋のドアを閉めたら、フレッドが壁にもたれて腕組みしてた。
「(随分早いお帰りで)」
ボソッと言った俺をジッと見つめてから、フウッて溜息をつく。
「(外まで送る)」
二人で並んで立ったバス停で、先に口を開いたのはフレッドだった。
「(楓…さ、よく笑うんだよね、色んな事で。悠はさ、知ってる?そう言う楓を。)」
真っすぐ夕日を見つめたまま話すフレッドの蒼い瞳にそれが綺麗に映し出されてキラキラ光ってる。
「(最初は、まあ、普通の可愛い日本人位にしか思わなかったけど。
今は、本当に可愛くてさ…楓と居ると癒されるっつーか、楽しくて。)」
「(…あのさ、ここまで来たら回りクドく言うの止めてくんない?)」
「(んだよ、ちょっと気を遣ったのに。)」
「(気を遣うんだったら、最初から、手ぇ出すなっつー話だけど。)」
横目で睨んだ俺に、クって楽しそうに笑うフレッド。
「(何だよ。)」
「(や、あんだけ言われといて、別れる気も諦める気もゼロだな…って思ってさ。)」
「(悠って以外と格好悪いのな!)」ってイタズラっ子みたいに白い歯を見せた。
…やっぱり聞いてたか。
まあ、大方、俺が変な行動に出たら止めに入ろうって見守ってたんだろうね。
「(…悪かったね、格好悪くて。
俺が楓に絡んでカッコ良かった事なんて今まで一度も無いから。)」
「(そうなの?楓が悠に片想いしてたって聞いたけど)」
「(…当たってるけど違う。)」
楓は確かに俺を想ってくれてたけど、振り向いて欲しかったのは俺の方だから。
「(複雑だね、何か。)」
フウッて溜息ついてみせたら、フレッドが俺の正面に立った。
「(俺は単純だからさ。楓が好き。それだけ。)」
「(俺に宣言した所で『はいそうですか、ではどうぞ』ってならないけど)」
「(楓が自ら俺を選んだら、別でしょ?)」
「(…別じゃないよ。同じ事。)」
「(はあ?!何それ!複雑過ぎて理解出来ないんだけど)」
眉間にしわ寄せて笑うフレッドに俺も含み笑い。
「(悠マジで格好悪い。)」
「(お前にどう思われようと気にしません。)」
…どう状況が変わったって、俺は、楓が好きだって想いは絶対変わんないし、”振り向かせたい”ってずっと想ってるに決まってる。
だから、格好悪くても何でも、あがくだけ。
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