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「楓、飲み物来たら適当に貰っといて」
「え…?もう寝るの?」
「俺、酔い易いから。薬飲んだけど一応ね。」
飛行機に搭乗してすぐに3人がけのシートの一番奥に座った悠がシートベルトしてから膝掛けをかけはじめた。
「柴田君!横並びだね~。よろしくね。」
「…ああ、どうも。」
「あっ!マミ『私一人で良い』なんて言うから、何かと思ったらそう言う事?」
私の横に座ったマミってコと後ろのシートの三人の女の子がキャアキャア騒いでる
も、もしかして、イギリスに着くまでずっとさっきのこそばゆい雰囲気を味わう感じになりそうかな。
「ねえ、柴田君さ…」
身を乗り出して、悠に話しかけてるマミさんと後ろの三人
…私が間に居ない方が話し易いんじゃ。
「悠、場所変わるよ?皆、悠と話したがってるし…」
「……。」
「悠?」
ゆうの顔を覗き込んだら、私を一瞥してフウッて溜息つく。
「…楓は?」
「え?」
「いいの?それで。」
「う、うん…まあ。」
トイレに行くのに不便な位なもんで特に後は立つ事もないだろうし…。
「あっそ。じゃあ、変わりましょうか?」
……あれ?
何か機嫌が悪くなったかな…。
悠は私と席を交代して、「おいしょ」って真ん中に座る。
「ゆ、悠…あの「柴田君、イギリスまでよろしくね!」
マミさんが顔を紅潮させて目を輝かせてる。
「俺、酔っ払い易いからほぼ寝てるだけだけど。」
「えーそうなの?大丈夫?」
「薬飲んだから。浮き上がっちゃえば大丈夫だって思うし」
そう言って肩まで膝掛けを被ると私の肩にコテンと頭を乗っける悠。
「ちょ…ゆ、悠…。」
「寝る。」
更に横から目線を感じて、顔を上げたらそこで初めてマミさんと目が合った。
「…やっぱり彼女なんだ?」
悠に話しかけた時とは違う、冷めたマミさんの声色。"彼女”と言う言葉にも戸惑いを覚え、答えに躊躇してしまう。そうしたら、悠が私と自分にかけた膝掛けの中で、キュッと掌を握り、そのまま指を絡めた。
ほら…また、違和感。
気持ちが、追いついて行かない。
『彼女は今までとは違うのよ』
『彼女』…だよね?私。
「……はい。」
ギュウッて絡められた悠の指に力が入る。私の返答に、マミさんは微妙な表情を見せた。
「ね、ねえ!どうやって付き合い始めたの?」
「え…?」
「何かさ…どうなんだろうな~って。」
納得いってない…んだろうな。
マミさんの笑顔…引きつってる、明らかに。
「ねえ、どうなの?!」
「えっと…。」
少し抑圧的な態度に気圧されてどうしたらいいかわからない。
何で…こんな風に敵意を露にされなきゃいけないの…?
私が、『彼女』だから?
「あ~もう、静かにしてくれる?女子トークすんなら、やっぱり俺が一番奥がいいじゃん。」
「え?だ、大丈夫。ちょっと興味あって聞いてみただけだから。もう静かにするよ?」
むっくりと不機嫌そうに起き上がった悠にマミさんが慌て出した。
「ご、ごめんね?」
笑顔を一生懸命作って悠に謝ってるけど、ずっと引きつってる。
さっきも『不思議』って言ってたしな…。
でもさ、マミさんの気持ちはわかる。そう見えるに決まってるもん、私と悠じゃ。
少し俯いたら、また膝掛けの中で悠の指がまたギュウッと私の手を握り直した。
「…俺がこの人口説いたんです。2年もかけて。」
「納得した?」って目を見開いてるマミさんに口角をキュッとあげて笑ってみせる悠。また私にこてんと頭を凭れさせる。
「ゆ、悠…。」
「本当の事でしょ?別に。」
困惑してる私をチラッと見ると
「まあ…まだ口説き途中だけどね」
「…え?」
「楓、俺、ミネラルウォーターでいいから。貰っといてね。」
また一つ溜息をついて静かに目を閉じた。
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