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人生のリサイクル
深い霧が晴れると、そこには、とんがり屋根の古めかしい建物があった。
「こんなとこに、店なんかあったか?」
鷲尾努は首を傾げながら、おとぎ話に出てくるお菓子の家ような佇まいのその店をまじまじと眺めた。
今年三十歳を迎える男が好んで入るような店ではないが、何故か無性に気になった努は、導かれるまま入り口まで足を運んだ。
ドアの横にあるヴィンテージ加工の施してある表札には、『Reborn』と書かれてある。
「Reborn? 生まれ変わり?」
何の店なのかよくわからないが、好奇心に駆られた努は、アルコールのほどよい酔いも手伝って、重厚感のあるそのドアを開いた。
「こんばんは……」
恐る恐る、声を掛ける。
見たところ骨董品屋らしいその店は、壺やら時計やらランプやらが、所狭しと置いてある。
吸い込まれるように店内に足を踏み入れると、努は数々の品物に視線を這わせた。
ちょうど、色鮮やかな花の絵が描かれてある皿を眺めていた時、「いらっしゃいませ」背後で滑らかな落ち着いた声がした。
「えっ?」
驚いて振り返ると、そこには、中性的な顔立ちをした男が、にっこり微笑みながら立っていた。
「あ、あの……。すみません。鍵が開いてたもので……」
慌てて頭を下げる努に、「大丈夫ですよ」男は笑って答えた。
見たところ努と同年代と思われるその男は、あまり外に出ないのか、薄明かりの中でもわかるほど色白で、キメの細かい肌は透き通ってさえ見える。
「何か気になるものでもありましたか?」
男の形の良い薄い唇が、バランス良く上向きに弧を描いた。
「あ……いえ。なんとなく入っただけですから……」
罰が悪そうに俯くと、努はごわついた黒髪をくしゃりと掻いた。
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