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村の王様の罪についての見解は実にいい加減だ。 王様は無辜の民にこんな事を言う。 –––大罪を犯した者に更生の余地は皆無 –––子持ちの親なら尚更のこと そんな公言に対する民衆の態度は多様である。 首を縦に振り賛同する者もいれば、 「なんて横暴なんだ」と陰口を叩く者もいれば、 剣を高々と上げて抗議する者もいる。 だが、最近は剣を持つ者を全く見なくなった。 理由はガッカリするほど簡単だ。 –––私に歯向かうなんて愚の骨頂 –––抗議者は直ちに殺す 剣を持てばあっという間に死ぬ。 民衆は死ぬのが怖いのだ。 王様の執る指揮は甚だ非情で賛同し難い。 が、成し遂げようとする目標には褒めてやりたい。 「犯罪ゼロ」 当然、一筋縄ではいかない。 そんな不可能に近い目論見を現実にするために 王様は熟慮を何重にも重ねた。 普通教育の充実化を図ったが不発に終わる。 防犯カメラを設置し監視性を高めたがいまいち。 銃刀法の厳重化はもう十分だった。 王様は失敗を幾度となく繰り返した。 色々試してみた結果、ある考えに辿り着いた。 –––絶大な抑止力がなければいけない 民が罪を犯さないと心に誓い、 更に犯罪者に加勢もしない。 一体何か、王様は考えた。 そして残念ながら気付いてしまった。 そんな万能な抑止力は「死」だけだと。 罪人に与える「死」は、当然ながら「処刑」だ。 すると王様は突飛な処刑法を考案した。 その名は〈バルーン・ベイビー〉 名前の通り、罪人の赤子を空へ飛ばす。 赤子がいなければ大切な誰かを一人選ぶ。 両親や息子、親友、恋人など。 選んだら風船に括り付けて空へ放つ。 「とてもな神秘的な処罰法」 「残酷度は低そうに感じる」 もしそんな所感を持ったら直ちに捨てたほうが良い。 この処刑法の肝は風船にある。 用いる風船はなんと「罪人の命」なのだ。 罪人の命に大切な人を括り付けて空へ放つ。 そして罪人に銃砲を渡す。 更に、ここで二つの選択を課すことになる。 「撃つ」か「撃たない」か。 撃つのであれば、躊躇の時間は一切ない。 罪人は直ぐに空飛ぶ命を撃たないといけない。 すなわち死なないといけない。 大切な人の「落下死」を防ぐためだ。 ぐずぐずしてると潡々と風船は上昇する。 そうなってしまえば救出は不可能だ。 撃たないのであれば、罪人は家に帰ってもいい。 だが、自由になる訳ではない。 行く行く風船は必ず割れる。 数分、数時間、運が良ければ数日。 鴉に突かれるかもしれない。 障害物にぶつかるかもしれない。 大気圧に耐えきれず破裂するかもしれない。 まあ、遠くない未来、風船の旅は終わる。 それまで罪人は風船という枷をつけて生きる。 突然、迫り来る「死」と隣り合わせで 余生を生きるのは、楽しくないだろう。 また枷にはもれなく大切な人の死もついている。 未知の何処かで大切な人を殺すことになる。 撃たない選択は撃つ選択よりも不幸だらけだ。 だが、決死の選択はきっと辛い。 〈バルーン・ベイビー〉を常時執行に移すと、 今迄よりも顕著に犯罪数の減少を示した。 この処刑の妙は第三者が抑止力となるところだ。 「アイツは危険だ」と親しい人は邪険にできない。 処刑の際、選ばれる可能性があるのだから。 選ばれたら拒否はできない。 巻き込まれる前に手を打たないと。 そう思った周りの人は罪を犯される前に 改心を手助けする。 本当に王様は頭が良い。 そして非情だ。 王様について思いを巡らすうちに、 後悔の念が沸々と湧いてきた。 時刻は午後二時。 晴天の下、青々と茂る草原の中で、 俺は銃砲を持って立っている。 俺は今から誅される。
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