3人が本棚に入れています
本棚に追加
9
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれ。お前のバンドのやつじゃねぇの?」
下校時間。友達からつっつかれ、校門に目をやる。
「…わかんない」
どれだけ目を細めても、徹底的に目が悪い僕に、この距離はつらい。
「そうだよ。ほら、なんつった? 右のやつ」
「右?」
客席から見て、だよね。ってことは玲次? でも、玲次の学校からうちの学校まで、電車使って15分はかかるぞ。僕、授業終わるなり出てきたのに。
「あ、本当だ」
やっと僕に玲次の容姿が確認出来る距離は、玲次に僕の声が聞こえる距離だったらしい。一歩踏み出した玲次に頭を小突かれる。
「何が本当だ、だ」
「だって、見えないんだよっ」
玲次の制服姿って初めて見た。練習の時もちゃんとキメてくるし。
長い髪を無造作に束ねて、カッターのボタンいくつか開けて、ネクタイぶら下げて、紺のブレザー羽織って。
「玲次、サラリーマンじゃん」
「うるせぇ」
すごくカッコいいんだけど、玲次の顔じゃ制服でさえ高校生じゃないんだよね。
「何やってんだよ、こんなとこで」
「お前を待ってた」
一瞬、ドキッとする。けれど、深い意味はなかったようで。
最初のコメントを投稿しよう!