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老婆が、低く笑う。
「おまえさまより力のつよい魔法使いが居ると認めるは、不快かえ」
「なにッ------」
「あとの方じゃよ、旅の魔法使いどの。儂は長い…長いこと生きておるが、おまえさまほど底知れぬ力の持ち主には会うたことがない」
「しかし------ 」
「世のなかは広いということじゃ。どのみち儂はただの占い婆、おまえさまが警戒するほどの器ではないわ」
ポウッ、と老婆の両手のあいだに青白い光が生まれた。リュウははっと身構えたが、それは直径三インチほどの水晶球であった。
「じゃが、おまえさまの探していなさるものを見つけて差し上げられると思うでな」
「探しているものなどない」
素っ気なくリュウは言い、それでも老婆からすこし離れたところの床に腰を下ろした。むろん緊張は解かず、一瞬でも悪意を感じ取ればすぐにも行動に移れるよう気を張り詰めている。
老婆はしなびた掌で水晶球を撫でながら、
「では、なにを占うてほしい ? 」
「勘違いするな。私がここに来たのはただの好奇心、占いに頼るようなことはありはせぬ」
「さても疑い深い御仁よな」
老婆がまた、嗤う。
「------それより、ここは一体どこなんだ」
「機織り街じゃよ。おなじ造りの家が並んでいたのを見なすったろう。ここには優れた機織り職人が棲もうておる。王とそのご家族、ご家来衆に、最上の反物を献上するため、国中より奉公に上がっておるでな」
「なるほど、それはわかったが。我々がいまいる場所はどこなのだ。王家に奉公する機織り街とやらとは、べつの空間なのだろう」
「応、とも言えるし、否とも言える。儂はこれでもダリウス王の信厚き機織り衆のひとりじゃでな。占い婆としてこの隠れ家に居ることはあまりないのじゃ」
「ふ……ん。王の膝下でぬけぬけと」
く、く、と老婆は笑い、やおら言った。
「おまえさまの運命は------ 」
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