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運命など知りたくはない。否、いまさら誰に突きつけられようとも、おのが往く道はわかっている。-----いやというほど。
リュウは凍てついたコバルト・ブルーの眸を据え、
「よせ」
と、短く言った。
「おまえに教えてもらうまでもない」
「しかし、予想の外やも知れませぬぞ」
「なにが予想外なものか。脅すつもりはないが、婆さん、私の気を荒立てぬがいい」
瞳とおなじほども凍りついたリュウの物言いに、老婆はそっとため息をついた。諦めたふうにも見えたが、水晶球を撫でる手は止めぬ。そうして、いきなり言ったのである。
「おまえさまは、あるじに逢いなさる」
つぎの瞬間、剣を持つ魔法使いは音高く立ち上がっていた。抑制するまもあらばこそ、魔剣 “ サファイアの眼 ”を一気に鞘走らせる。
「おのれ------ッ ! 言うにことかいてよくもそんな、でたらめを…ッ !! あまつさえ-----あ……」
怒りのあまり、声がかすれた。
「お座りなされ」
「あ、あるじに出逢うだとッ ! ……断じて赦さぬ……ッ !! おまえは一体なんの権利あってそのような暴言を吐くのだ !! 」
魔剣は、抜き身が露わになった瞬間から昏く低い怒りの歌を唄いはじめていた。リュウの心に添い、その想いのままに生命の丈を唄いはするが、ともすれば統べるはずのリュウの命をすらも弾く。ひとたび放たれれば制御の敵わぬ剣なのである。しかし、その恐るべき切っ先を衝きつけられても老婆は意に介したふうもなく、
「お座りなされッ !! 」
ぴしりと言い放った。
「儂の話は済んではおりませぬぞえ」
「だれがそのような戯言を聞きたいものか !! それ以上申せば斬って捨てる !! 」
「最後まで聞いて、納得できぬとあらば斬って捨てなされ。よろしいか」
「黙れ、黙れッッ------!! 」
リュウは闇雲に剣を振り上げたが、
「長き銀の髪と------」
そう、老婆がつづけたとき、魔剣は生命を凍てつかせ、宙で止まるや歌を忘れた。リュウと同化する “サファイアの眼 ”の動揺を知ってか知らずか、老婆は淡々と言い募る。
「美しい面、竜のごとき不屈の魂を持った若者と、おまえさまはいま一度巡り逢いなさる」
リュウは、震えはじめていた。怒りは深い哀しみに取って替わられ、死の沈黙に支配された剣が手から滑り落ちた。彼はよろめき、込み上げる嗚咽を懸命に噛み殺そうとした。
「-----こんな国に来るのではなかった…… !! 一夜の安寧を求めただけが、よもやむざと奸計のなかに身を投じてしまおうとは……ッ! 」
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