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さて、人間の男である。
ポカンと愚鈍な表情で、猫たちの争いを眺めていたが、思い出したように、掃き出し窓から、サンダルをつっかけてまろび出た。
松の木の根本のスナゴケの上に、人魚の肉は、かすかな光を放って落っこちていた。
「フウ危ない。猫に食われるところだった。早く小瓶にしまってしまおう」
やれやれと胸をなでおろし、よっこいしょとかがみこみ、それを拾いあげようと手を伸ばした。
――その瞬間である。
上空から漆黒の影が舞いおりた。
悪魔ではない。鴉である。
たちまち肉片を攫い、おまけにアホーと、人を小馬鹿にするような鳴き声をあげ、アッサリと飛び去った。
男は、その場に呆然と立ち尽くした。
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