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和幸の奥の手
空中給油を終えたF53は高度を5万フィートに上げ、マッハ1.2の巡行に入った。
「拓也さん、来ました」
その真理の声に僕が上空を見上げると、1万フィート上空に飛行機雲を引きながら和幸の操縦するC230が僕達の機体をゆうゆうとパスしていく。 東京迄はあと200キロ。和幸は羽田に着陸して小型ヘリコプターに乗り換えなければならないから、これでもこちらの方が早い筈だ。
前方でC230が高度を下げ始めるのが遠くに見える。多分、このまま五菱重工の本社ビルの屋上に直接着陸出来れば、充分に勝てる筈だ。僕もF53の高度を下げ始めた。
その時、真理が声を上げた。
「拓也さん。C230は羽田への着陸コースに載っていません」
「えっ?」
「高度1万フィートで都心上空を目指しています。これは……」
C230が東京湾上空を飛行しているのが見えて来た。確かに羽田に向かっていない。
「和幸、どうするつもりだ……?」
そう僕が思った瞬間だった。C230の後部から何かが分離した。
「あれは……、まさか……? 小型ヘリで直接……?」
それは四井重工のY22ヘリコプターだった。和幸は羽田での乗り換え時間を短縮する為、C230にY22を搭載し、空中で直接ヘリに乗り込んだんだ。Y22の前方には五菱重工の本社ビルが見えて来た。
「このままでは……、間に合わない……」
後席から真理の呟きが聴こえる。
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