南小島へ

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 高度5千フィートで150ノットまで加速し、水平飛行モードに入れると、機首方位を180度に向け東京湾上空に出た。そのままアフターバーナー出力に入れて、ほぼ垂直に上昇をする。高度計の針が一気に高まり5万フィートで水平飛行に入った。その後、方位を239度に向け南小島への大圏コースに載せる。  速度は一気に超音速を超え、マッハ1.2に達するとスラストレバーを少し引き巡航推力(クルージングパワー)に入れ、自動操縦をエンゲージした。9f4ada45-b537-466d-8a6a-56cf5ae0031e  僕はこのF53の操縦訓練を既に二年前から受けており、操縦技能は最高レベル(エクセレント)の評価を受けていた。 「南小島まで1893キロ。着陸まで94分です」 「他の機体は? 和幸と一郎は?」 「本多一郎さんのT60は約80マイル前方を高度2万フィート、速度305ノットで飛行中です。四井和幸さんのヘリコプターは羽田空港に着陸しています。多分、四井重工の超音速輸送機C230に乗り換えて下地島へ、そして、そこで再びヘリコプターに乗り換えて南小島に向かうと思われます」  速度305ノット(565キロ)でしか飛行できない一郎の機体は南小島まで200分以上掛かる筈だ。超音速で飛ぶこのF53の敵じゃない。  問題は和幸のC230だ。あの最新の輸送機はマッハ2.2で飛行できる。このF53よりも遥かに早い速度だ。でも和幸のC230は南小島のヘリポートに着陸出来ないから下地島でヘリコプターに乗り換えて南小島に向かう必要がある。どっちが早いかか……? 「現状では、私達の南小島への往復時間は219分の見込みです。これは帰りの屋久島での給油も含みます。そして四井和幸さんは羽田と下地島での乗り換えを含むと234分の見込みとなります。速度は私達の方が遥かに遅いですがVTOL(垂直離着陸)機能で直接五菱重工の本社ビルと南小島のヘリポートに着陸出来るF53に大きなアドバンテージがあると言う事です」  真理の説明に大きく頷く。これでこのレースは安曇重工の勝利だ。結果として茜を僕のモノに出来る。  僕は高校三年の彼女への告白のシーンを想い出していた。
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