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 あわててバッグから、キヨリがCMに出演しているお菓子を取り出して見せる。  それから思いついたように、ペンケースからサインペンを取り出した。 「なあ、ここにサインしてもらえへんかな? これ、食わんととっとくから!」 「ええよ。ここでええ?」  ペンを受け取り、パッケージに簡単なサインを入れる。  そろえて彼に返すと、彼はその小さな箱をぎゅっと抱きしめた。 「ありがとー! 大事にするわ」  そろそろ教室へ、と言い出そうと思ったその時、次の少年のグループがやって来た。  またしても同じように声をかけられる。  予鈴でも鳴ってくれれば振り切って教室へと逃げられるのだが、あいにくまだまだ時間は早い。  それで彼らの申し出を断る理由を考えるのも面倒だ。  キヨリは、アイドルだ。CMを何本か持ち、バラエティのゲストも多い。レポートの仕事もいくつかこなしている。水着グラビアなどの仕事は滅多に回って来ないが、写真集くらいは出している。  歌はあまり得意ではないので、デビューの時に一度CDを出しただけだ。 「キヨリ」というのは本名の「川内清里(きより)」から切り取った芸名。
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