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細い階段を昇り、屋上のドアを開ける。
「こんばんは、寒いねぇ」
寝ている須田を見付け出して声を掛けると、彼は微笑んで返す。
前回と同じようなところにいるということは、目印のないこんな場所でも気に入りの場所があるということなのだろう。
「こんばんわー」
彼の隣に腰を下ろし、彼が見ている方を眺める。
彼は何も言わない。
新しいコートについても、案の定何も言わなかった。キヨリは、少しほっとした。
彼にはそんなことで下手に誉められたくない、という気持ちがあったから。
自分の基準を持った、見た目に惑わされるような人ではないと、そう思っていたかった。
そのままゆっくり時間が過ぎる。
須田は別に何も聞かないし、知ったかぶって何かを語ったりもしない。
こちらから家が遠いのかどうかや、何のバイトをしているのかなどを聞けば答えるが、それも必要以上には話さない。
無口やニヒルを気取っているのではないことは、雰囲気でわかる。それ以上のことを話す必要はないのを知っているのだ。
キヨリを特別ではないただの生物としてしか扱わない星空と、大した興味も示さない須田。
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