7人が本棚に入れています
本棚に追加
朝食はホテルで取り、昼は旧市街のレストランで済ませた。街を観光し、ショッピングをし、人懐こいキューバの人々と触れ合った。大量の買い物袋を手にホテルに戻った時には、夕方の五時を回っていた。
少し休憩した後、桃子は荷物を持って洗面所に行った。数十分して出てきた彼女は、薔薇のように真っ赤なドレスを着ていた。胸元には刺繍、スカートはサテン、その上を赤いベールが覆っていた。彼女の体の曲線、赤に生える白い肌は美しかった。
「どうかな?」と、裾を広げ、桃子は言った。
「とっても似合うよ。凄く奇麗」
「ありがとう」桃子は照れたように笑う。
夕方の六時から、レストランでバンドの生ライブがあった。自由にダンスを楽しめる、市民に愛された老舗のホール。桃子はベッドに座り、赤いエナメルのハイヒールを履いた。
「春ちゃんも着替えてきなよ」桃子は言った。耳を飾るのは赤いハイビスカス。
「うん、ちょと待っててね」
ワンピースドレスを持って春美も洗面台に向かった。鏡の前、春美は上着を脱ぎ、スカートを落とした。腰を屈めた時、下半身に生暖かい物を感じた。急いでトイレに行き、確認すると下着が経血で赤く染まっていた。
「何、どうしたの春ちゃん?」洗面所から出てきた春美に、桃子は駆け寄った。「どうしたの?体調悪くなっちゃった?」
「ううん、違うの」と、春美は言った。言葉が詰まった。そんな自分の態度に自分自身が驚いていた。「あのね、生理が来ちゃった。だから、一緒に踊れないかもしれない」
「春ちゃん」と、桃子は言った。今にも泣きだしそうな顔をしていた。「そんな話じゃないじゃない。大切なのは、そんな話じゃないでしょう」
「ごめんね、せっかくの夜に」
桃子は春美を抱きしめ、その頭を撫でた。子猫にでもするように、綿あめに触れるように。春美も桃子を抱き返した。その匂い、その温もり、その声。視界が滲んだ。下着を汚した鮮血を思い出す。若者たちの流した血と、桃子の太股を流れた体液を思い出す。
自分は一体、何を得たというのだろう?
「ねえ、春ちゃん」と、桃子は言った。「旦那さんの事、大好きだったんだね」
最初のコメントを投稿しよう!