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10連休スタート。
特にやることも無く公園に来た。
朝の8時
子供は当然いない。
いるのはおじいちゃん達ばかりだ。
入口近くのベンチからおじいちゃんたちを眺める。
おじいちゃん達の輪の中に一人若い人の姿が見えた。
「あれ?見間違い?」
もう一度見て見たがやっぱりいる。
まぁ、いいや。僕は眺めてるだけなんだから。
そのまま10分ほどおじいちゃん達を眺めていた。
「お隣いいですか?」
ビックリして声の方を向くとさっきのおじいちゃん達の輪の中に居た若い人だった。
「え!?あ、どうぞ」
すんなり「どうぞ」と言いたかったのに変な感じになってしまった。
「今日はお休みの日なんですか?」
若い人が話しかけてきた。
「あ、はい。」
「世間は今日から連休ですもんね。」
「あ、でも10連休とかじゃないですよ。上司に何日か出てくれって言われて。」
「頼りにされているんですね。お仕事楽しいですか?」
「そんなことないですよ。僕はきっと部署のお荷物ですよ。猫の手も借りたいくらいだからまぁ、いないよりかはマシか。みたいな?」
なんで初対面の人にこんなことを話しているんだろう。
こういう時普通だったら上手いこと言うんだろうな。
若い人の顔を少し覗きこむ。
気難しい顔はしていないから気分は害してないらしい。
「不安ですか?」
「え!?」
なんの事か分からない。
「きっと頼りにされてますよ。」
顔を見ると穏やかな顔だった。
「なんのお仕事されているんですか?」
「あ、会社の中でものが壊れたら直したり、新しいものを作る仕事を。」
「縁の下の力持ちですね。」
確かにそうかもしれない。
「でも同僚はみんなメインの仕事で僕はそんな凄いこと出来ないので部署のちまちましたことばかりしてます。だから仕事してるけどしてないみたいな感じです。」
ここまで話す必要なんてないだろうし話してしまう自分が情けない。
「そんなことないですよ。仕事は仕事です。それに全員がメインの仕事をしていたら仕事になりませんしメインの仕事の方はあなたの仕事をあなたほどの速さや正確さで処理できないのではないかと。」
「まぁ。でも誰にでもできる仕事なのは変わりませんよ。」
しばらく沈黙が続いた。
あまりにも気まずいので場所を変えようとした時若い人が口を開いた。
「お名前伺ってもいいですか?」
「僕なんかの名前を聞いても。」
若い人はニコニコしている。
「自分から名乗るべきでしたね。鳴海です。近くの寺で働かせて貰ってます。」
「寺?」
意外だった。見た目は金髪な上に髪の毛は肩の近くまであるのだ。
とても寺で働いているようには見えない。
「意外!だって思われたでしょ?」
どきっ!とした。
顔に出ていたのか?
「この格好で寺で働いてます。なんて言ったらたいていの人は驚きますよ。」
完全に名乗るタイミングを逃したが一応名乗った。
「こんなタイミングですみません。飯妻 海斗です。」
「海斗さんかぁ!いいお名前ですね!」
鳴海はにかっ!と歯を見せて笑った。
すぐに落ち着いた顔に戻った。
「少し僕の話を聞いてくれませんか。」
そう前置きして鳴海は話し出した。
「僕の寺には毎日十何人っていう方が来てくれます。みんないい人です。いろんな人が居て楽しそうに色んなことを話してくださる方や、じっくりじっくり話を聞いてくださる方、若い方に「昔、こんな失敗したんだ」って話をしてくださる方。そんな方たちを見ていると毎日の行動が人を作るんだなって思うんです。この世に意味が無いものなんてないんだなって。でも毎日同じことをしていると環境に慣れてしまってあまり感情が動かなくなってしまって幸せが薄れてしまうんです。」
感情は確かに動いてない。
「人は生まれた瞬間にちゃんと感情をもって生まれてくるんです。嬉しい、楽しい、怒る、悲しい。でも大人になってからそれを封印しちゃう人もいます。自分が我慢すればいいやって。大人になったんだから。って。周りの人が幸せになるようにって。」
そこまで聞いて声が出なくなった。
あまりにも自分の事を言われているようで。
「そんな人達の多くは最後は自分を責めちゃうんですよ。自分で決めたことなんだから、自分が選択したことなんだからって。なんでも自分のせいにしちゃって。それで自分なんか、自分なんてって。本当はずっとずっと優しいんです。優しすぎるんですよ。自分なんてって言葉が出てきちゃう人は。」
鳴海が体をこっちに向けてきた。
どんな顔をしたらいいのか分からなくてひとまず下を向いた。
「海斗さんも優しすぎるんですよ。さっきだって僕の気分害してないかなって顔見てくれたでしょ。」
「気づいてたんですか。」
「もちろん。」
声が明るかった。
「嫌な気分とかになったりとかは。」
恐る恐る聞いてみる。
「なるわけないじゃないですか!大抵の人何かあってもそんなにすぐ怒らないです。さっき言いましたよね。毎日の行動が人を作るって。過去は変えられないけれど未来はいくらでも理想の未来に出来るんですよ。だから、自分なんてじゃなくて今までやってきた自分だからって思ってみませんか?生きることだけでも大変なのにお仕事もされてみんながやらない仕事をされている。誰にでも出来ることじゃないですよ。」
鳴海が背中をポンポン叩いてきた。
気がつくと目から涙が零れてた。
泣くのをやめようとしたが自分の意思とは関係なく涙は流れ続ける。
「おーい。鳴海そろそろ寺戻るぞ。」
知らない声が聞こえ思わず顔を上げた。
「ちょっと。竜也さんそこはもう少し雰囲気をさぁ。」
竜也と呼ばれた男は寺の住職のような格好をしていた。
「あ、寺の。」
「すみません。うちの住職が空気読まなくて。」
鳴海が竜也の頭を無理やり下げさせ謝らせた。
「あ、まぁ。こちらこそこんな話しちゃってすみません。」
「いいんですよ。海斗さんもしこの後予定がなかったらうちの寺に寄っていきませんか?」
「え!?予定はないですが。」
「今、誘ってもらったんだから行かなきゃって思いました?」
図星だ。
「海斗さんは来たいですか?それとも来たくない?」
「訳の分からないとこに連れていかれそうで怖いんだろ。」
竜也が口を挟んだ。
「海斗さんって言ったか。うちの寺はここら辺の人達が集まる程度には安心な寺だ。
人の顔色を伺って安心するのもいいがあんたはどうしたい。面白そうだから行ってみたいのか。怖いからいいのか。他の人に変な事を言われそうだからやめとくのか。」
他の人に変な事を言われそうだからやめとく。
それが一番無難な気がした。
「い、行ってみてもいいですか?」
2人はにかっ!と笑って
「それが聞きたかった!よく言った!」
わしゃわしゃと頭を撫でた。
「怖かったろ。その言葉を口にするのが。」
「はい。でも鳴海さんが未来は理想の未来に出来るって言ってくれたからそれだったら、ちょっとでも変えてみたいって思ったんです。」
「もう変わってますよ。海斗さんの未来はちゃんと。戦い続けるのは大変だから5回に一回くらい勇気出して見ましょうよ。せっかく生きているんですし。」
よし!と鳴海が立ち上がった。
「海斗さん行きましょっか!」
鳴海は手を差し出した。
その手を握手よりずっと強い力で握り返して自分も立った。
太陽が朝より高いところに登って僕ら3人を照らしている。
いつぶりだろう。自分にも未来があると思えたのは。
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