プリンは世界を救う。

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 琥珀色の雫が滴る。 夕焼けの空から降る雨って、こんな色してるのかもしれない。 ひとすくいの卵色が匙の上で揺れる。 その僅かな揺れが収まる前に、私の口の中にそれを滑り込ませる。 脳裏へ吸われてゆくバニラの香り。 触れる。揺れる。 舌を滑るような、スプーンで削られた断面。どこにも歪みがない、私の身体にフィットする一瞬。 断面の形はシャープでありながら柔らかく、それでいて崩れ去ることもなく。 唇に沿うようにして、鈍い銀色のスプーンを抜き出した。 こっくり滑らか、そしてつるりと喉を通り過ぎる。 その数秒、世界は静止画に姿を変える。 卵の甘味。舌に走るカラメルの刺激。最後にふわりと全てを包むバニラ。 ああ、これこそが三位一体を体現した食べ物だ! 手のひらに残る感覚が、ついさっきまで存在していたことを物語っている。 身体に黄金色の幸福が注がれている気がする!あの卵色に纏わりつく琥珀色のカラメルソースのような、そんな黄金色!  はぁぁ――。 ひと口分だけ削り取られたプリン。 窓から漏れる日の光をその曲面に受けて、てらてらと濡れた艶やかさをこちらに見せる。 その黄金色はカラメルの滝に当たったからこそ生まれたものに違いない。 おーよくがんばりまちたねーよちよち。 自分の鼻先にもカラメルがつきそうなほど、至近距離でプリンの曲線に視線を滑らせる。 これを私の胃に収めるのであれば、どんな小さな欠片であっても記憶の中に留めておきたいのだ。 瞬きという名のカメラのシャッターを切って。  はぁぁぁぁ――。 たったひと口が器の上から消えただけなのに、なんでこんなに疲労感が押し寄せるんだろう。 そうは言っても、私の体では静かに燃えている。プリンを食す時間への沈黙の興奮が。  夕日色に染まった瞼の裏。突如白い光線が突き刺さる。 目が眩む。 ぷるん――不完全な台形のわずかな揺れ。 指先から無意識的に震えが走る。 カタカタとテーブルに打ち付ける、銀の匙。黄金色の表面にカラメルの波。 プリンと私の全身が共鳴運動を始める。 カタカタカタ―—。 体中からノイズが放出される。私の全身をぐるぐる回って、視界に銀色を派手にまき散らしながら。   あぁ、プリンが! 白銀のベールに掻き消されてゆく! あああ、待って私のプリン、まだひと口しか私の胃に収まっていないのに! カタカタカタ――待って、まって――。 「――待ってぇぇ!」
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