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2人は地下室を出た。
忌まわしい記憶を閉じ込めて、そんなものは燃やしてしまいたかった。
外は晴れ渡る青空だった。
太陽だけが、何も知らずにそこで輝いている。
結局人類は、どこに行くことも出来なかった。
宇宙に飛び出すことも、世界の全てを知ることも。
後に遺ったのは、彼らが造った、感情を持つ馬鹿げた玩具だけだったのだ。
2人は手を繋がぬよう気を付けながら、互いの瞳を見つめて向かい合った。
いつかの人類が体験したような、ありふれた午後の風、ありふれた太陽が、ありふれた少年と少女に向かい笑っている。
「僕は『共に生きていこう』とかって言われたら、どこまでも一緒に行くつもりだったんだけどな」
終末は少しだけ惜しいといった感じで言った。
しかし、少女はそうは言わなかった。
「そんなことをしても何にもならないわ。自分たちらしく死ぬのが、きっと最も素晴らしいことよ」
終末は、今までの僅かしかない経験を、少女とした旅を思い出した。
そして、言う。
「それは人間の言葉だろう?」
少女は楽しげに笑う。
「だったら何だっていうの?」
そして、ふっと背伸びをする。
少女は青い瞳が揺らめく終末の目を見つめ、終末の唇にそっと自分の唇を重ねた。
どこにも行けない2人だった。
生まれ、生きた時点で、彼らがどう生きることも出来ないということが運命づけられていたのだ。
2人の涙が、頬の上で混ざり合う。
どうしようもなく、それは愛だった。
地球最後の、人類最後の、ありふれたキスだった。
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