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【現在】
「東京の街を生きて歩いていた時点で、君は人間ではないと思ったよ。そして、君が記憶喪失だと聞いて確信した。君は【米軍製人間型爆弾】なんだと」
終末は奥歯を噛みしめながら言った。
少女が『記憶を思い出すのが楽しみだ』とか『記憶を思い出すために生きてきた』というたび、終末の胸は締め付けられた。
「だから、僕も君と同じだ」
終末は少しだけ、いつもより声量を上げた。
「僕は戦争のせいで生きる意味を失くしたんだ。だからせめてと思って、東京の街で君を探していた」
生きる意味を失くした。
その言葉は、重く重く、少女の胸にのしかかった。
「私も、私もよ。戦争のせいで私は生まれ、人類は滅び、私は記憶を失った。だから私も、生きる意味を失くしたの」
戦争が奪うのは、なにも人間の命だけではない。
「皮肉なものね」
少女は言った。
「世界を滅ぼす力を持っていても、世界が先に滅んでしまったら仕方がないわ」
終末は苦笑した。
「全くその通りだ」
少女はこれまでの、記憶を失ってからのことをゆっくりと思い出した。
死のう死のうと何度思っても、自分が今までに何を思い、誰と共に生きてきたのかを知るためだけに、ここまで生き延びてきた。
でも、それも全て無意味だった。
少女は何も感じない、独りで生まれた兵器で、人間としての名前も与えられていない。そもそも思い出すべき記憶などなかったのだ。
少女の中にインプットされたのは目的と、事実をでっち上げて会話を成り立たせるための嘘と、起爆条件くらいのものだった。
……………………起爆条件。
少女は、涙で霞んだ瞳を開いた。
終末が、申し訳なさそうな苦笑を浮かべ、少女の前に立っていた。
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