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【あの夜】
少女はその夜、あてもなく街を歩き続けていた。
目的地はなかった。それでも、荒廃した街の廃墟の中で独り震えているよりは、ただ歩いている方がよほどましに思えた。
その夜は、高架下で明かすことにした。
雨が降り出しても大丈夫だし、風もある程度凌げる。街が滅びる前はホームレスたちで溢れているような場所だったが、おそらく全員死んだのだ。心配はいらなかった。
少女は、独りで眠りに就いた。
夢を見ようにも、記憶はひとつしかない。
その記憶すら何年も前のものなのか、それともつい昨日のものなのか、見当もつかなかった。
少女はしばらくして、足音で目を覚ました。
足音で目を覚ますなんていつ以来だか、それを思い出すことさえ少女にはできなかった。
夜はまだ明けていない。
空も白まない。きっと真夜中。少女はそう思った。
足音は、少女が寝転んでいる目の前で止まった。
少女は眠い目を擦る。重い頭をどうにか上げた。
足音の主は、1人の少年だった。
ジーンズと、すこし汚れた白いTシャツを着ている。
どういうわけか、服装は少女と似通っていた。
月光を吸い込んだような金髪が鮮やかで、白い肌と青い瞳のコントラストが絶望的に綺麗な少年だった。
まだ生きている人がいたなんて。
少女は驚きのあまり、涙を流す暇もなく完全に静止してしまった。
少年の薄い唇が、すぅっ……っと開く。
「ちょっと、話をしようよ」
少年は、慌てる素振りも見せない。
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