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終わりゆく旅
【現在】
旅の終着点。
それは全く『終着点』と呼ぶには相応しくない、特別性のない廃墟だった。
郊外を歩いていると不意に現れた、ただ一際大きいだけの、建物の廃墟。
「これが、旅の終着点」
「ただの廃墟じゃない?」
少女は拍子抜けした、というように言った。
終末は、黙って首を振る。
「着いてきて」
終末は優しく言った。
廃墟の中に踏み込む。そこは今までのどんな廃墟より、不気味な雰囲気に満ちていた。
何もかもが焼け、吹き飛ばされているのにも関わらず、その不気味さだけは恐らく、破壊される前と大差なく残っているようだった。
しばらく終末についていくと、建物のかなり奥の方に、地下への階段が現れた。
壁も床も天井も吹き飛んでしまっているのに、階段だけは埋もれずに形を留めている。
階段の下は深い闇だった。
終末と少女は、それをひたすらに下る。
✴︎
辿り着いたのは、研究室のような場所だった。
病院の診察室のように薬の入った棚が並んでいて、人間がいたかのような痕跡が微かにある。
少女は、そこに連れてこられた意味を理解できずにいた。
戸惑う少女をよそに、終末は薬品棚へ向かい、一本の薬品を手にして戻ってきた。
「これを飲んで」
終末の言葉に、色はない。
その小さなビンには【データ復元】と書かれている。
「でーた………ふくげん?」
「そう」
終末の言葉に、色はない。
「飲めば分かる。全て」
終末の瞳には、有無を言わせぬ力強さがあった。
少女は意を決して、その薬品を喉に注ぐ。
そして、嚥下した。
少女は数秒のち、さまざまな感覚を一気に感じた。
まず苦い。
なんだこれは。
今までに味わったことのない風味だった。
なんとか知っている言葉で言えば【苦い】に近いが、見方を少し変えれば【甘い】ようにも感じる。
次に不思議な味に包まれるようにして、少女の頭に、情報が洪水のように湧き起こった。
これが薬品の作用なのだろうか。
少女の予想は当たっていた。
それは薬品の効果だった。薬品はしっかりと効果を発揮していたのだ。
その洪水こそが、少女の『真なる記憶』だったのだから。
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