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【少女が思い出した記憶】
記憶の中の少女は、どこかの病室で眼を覚ました。
それを出迎えたのは、軍服を着た男たちと、白衣を着た医者、研究者のような出で立ちの人々。
彼らは戸惑う少女に、さまざまな説明をした。
彼ら、曰く。
【少女】は、米軍によって作られた兵器だった。
ただの兵器ではない。
米軍の叡智全てを注ぎ込んで作られた、人間型爆弾、その初号機だ。
その破壊力は、冗談ではなく桁違いだった。
都市一つを吹き飛ばす程度、日本を破壊する程度、そんなものでは収まるはずもない。
もし東京で爆発したなら無傷で済むのは南北アメリカ大陸だけだと言われるくらいの、超人類的兵器。
それだけの爆薬が【少女】の体内には仕込まれていた。
次に【少女】の容姿は完全に日本人だった。
米軍はこの人間型爆弾を開発し、敵国へ送り込み、有事の際には炸裂させることを目論んでいたのだ。
【少女】は人工知能が搭載されていて、会話や一般的な言動は全て卒なくこなせた。
家族、趣味嗜好、思い出など、不必要な情報は全くインプットされていないが、嘘をついてその場をやり過ごすくらいのことは容易くできた。
まさに完璧な兵器。
注意すべき点は、たったの2つだった。
1つは、過剰な放射能を浴びてはいけないこと。
多すぎる放射能は【少女】の人工知能にバグをもたらすのだ。
具体的には【自分が兵器であることを忘れる】とか【嘘をついてやり過ごす能力を失い、自身が記憶喪失だと思い込む】といった不都合が生まれる。
2つめは、起爆条件についてだった。
起爆条件は、他人の身体に、意図的に触れること。
身体のどこかにスイッチをつけるわけにもいかなかったし、不審な点はできるだけ減らしたかった。
そういう意図の末、米軍は【少女】の起爆条件を【他者に意図的に触れること】に設定した。
これらの説明を【少女】は一度聞いただけで完璧に理解した。
人工知能は優秀なのだ。
何も忘れず、何も聞き逃さず、バグさえなければ全てのことを最善にこなす。
【少女】は、問題なく完成した素晴らしい兵器だと認められ、日本に送り込まれた。
日米情勢は当時から悪化し始めていたため、いざという時に日本に対して楔を打つ。それが米軍の狙いだった。
そのはずなのだが。
日米情勢が急速に不安定化し、送り込んだ最終兵器【少女】もろとも日本を破壊し尽くすことが、その1年後に決定された。
【少女】を日本に残したまま、5発の核爆弾が、日本に降り注いだ。
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その【5発の核爆弾】こそが少女の持っていた【少女の唯一の記憶】だった。
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