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終末世界
【現在】
彼の金髪が風に流れ、その青い瞳が不意に揺らぎ、ビルが倒壊する音が、どこかで聞こえた。
少女は少年に気付かれないように、流し目で様子を伺う。
荒れ果てた車道を、少年と少女は歩いていた。
車など通らない。
少年と少女しか動かない。
どうしようもなく静かな世界だった。
人間がいた痕跡が崩れる音が、時々聞こえてくる以外には、大きな音など全くない。
それより少しだけ高い頻度で、少女か少年のどちらかが言葉で空気を揺らすくらいだ。
少女は、空気の揺らぎを感じ取った。
ふと隣を見れば、あの夜のように、少年が薄い唇を開いたところだった。
すぅっ………っと、少年が息を吸う音が響く。
その音は、どこまでも響いた。
その唇に吸い込まれるように少女は、『あの夜』を思い出していた。
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