真紅の小綺麗なノート

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真紅の小綺麗なノート

 今日の私は必死にモバオクでわずかしかないノーブランドの洋服や日用品を出品する作業に追われている。  私が出品しているのは擦切れる直前まで使ったタオルや数年前から着ているスウェット、半分ほどの長さになった小学生の頃に流行った魔女っ子キャラクターの鉛筆など使用感があるものばかり。もちろん全く入札されなかった。そりゃあそうだろうと頭ではわかっているが 「クタクタのスウェットで寝たいけど丁度いいクタクタのスウェットがないから今欲しい!」 みたいなユーザーがどこかにいるのではないかと信じ出品を続ける。  ふと、狭い部屋をぐるりと見渡すと、出品していないものは冷蔵庫とガスコンロ、薄っぺらい布団に母の嫁入り道具の引き出ししか残っていない。ただでさえ物が少ない部屋で過ごしてきたのに、これ以上出品してしまうと人間として生活を営めなくなってしまうギリギリの状態まできていた。  もう売れるものは何も残っていない。  ほとんどものが入っていない引き出しを順番に開けていくと、二番目の引き出しの奥に真紅の小綺麗なノートが目に入った。  両親が亡くなってから嗜好品を一切買ってこなかったことを考えると、この小綺麗さは恐らく小学校か中学校の頃にお小遣いで買ったものだ。少し古びてはいるが今出品しているものよりは売れる見込みがあるだろう。未使用か少し使っていたとしてもそのページだけ破ってしまえば売れるかもしれない。そう思いノートを手に取りページをパラパラとめくっていくと希望に反し中学生の頃に流行っていた丸っこい文字とカラフルな落書きでみっしりと埋まっていた。 「ハァ…これじゃ売れないじゃん……えっ!?」  売れないどころではない、私は開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
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