45人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
第二話 掘り出し物?
……暑い。
川本涼香は鼻の上に浮かび上がる雨粒のような汗を拭う。
祖父の茂からのお願いで涼香はある掛け軸を探すために裏にある小さな蔵へ来ていた。しかし、ほぼ物置状態の蔵の中から探すのは一苦労で目当ての代物はなかなか見つからない。諦めようとしたその時、奥にある桐箪笥の中からカタカタとかすかに震える音が聞こえた。
何? もしかして鼠でもいる? 咄嗟に先ほどまで躊躇なく突っ込んでいた手を引く。しんとした冷たい空気が漂う中、再びカタカタと何かが音を立てる。どうやら三段目の引き出しから音が鳴っているようだ。
やっぱり何かいる。しかし、あと探すところと言えば音を立てているあの箪笥しかない。深く深呼吸をして震える手をさすりながら涼香は箪笥の引き出しを上から順に開けていく。
どうか、どうか先に掛け軸が見つかりますように! 神に祈る気持ちで引き出しを開けていくが、その願いも虚しく中は空だった。
涼香は深呼吸というか、ため息というか、大きく息を吐く。気分はどん底だが、もしかしたらここに掛け軸があるかもしれない。できるだけ身体を反らして三段目の引き出しを開ける。睫毛が邪魔する視界の中に鼠はおろか、生物らしき姿は見えなかった。とりあえず安堵して目を通常に開けて中身を確認する。埃まみれの風呂敷や変な置物がごちゃごちゃとある中、奥に掛け軸らしい長細い巻物のようなものがあるのを見つけた。
「あった!!」と嬉しくなり手を伸ばして掴んだところ、前方にある小さな木箱がカタカタと小さく震えた。鼠と思っていた音の主はこれだった。
紫の紐で縛られていた木箱も掛け軸と一緒に取り出す。なぜこれが震えるんだろう? 虫か何か入っていたとして、その虫はどうやって紐を縛ったの? 恐る恐る紐を解いてみると、綿に包まれた小さな風鈴が入っていた。
一応綿をめくって探すがどこにも虫は見当たらない。じゃあ、音を立てていたのはこの風鈴?
揺らしてみると「チリン」と涼し気な音色が蔵に響く。ちょうど入り口から風が入ったこともあって汗が少し引いていく。
「涼香、見つかったかい?」
後ろを振り返ると、茂が蔵を覗いていた。あまりにも遅いから様子を見に来たのだろう。涼香は蔵から出て茂に巻き物を渡す。
「ああ、これだこれだ。ありがとう」
「ねえ、おじいちゃん。これ知らない?」
涼香は一緒に持ち出した風鈴を茂に見せる。通常でも細い目を限界まで開けてまじまじと見た茂は首を横に振る。
「さあ、これは見たことないなあ。おじいちゃんも上の人から受け継いだものを蔵にしまっていたから、もしかしたらその一つかもしれないね」
しかし、風鈴には傷が一つも見当たらない。まるで新品のように木箱にしまわれていたことを考えると、きっと貴重なものだ。
「ねえ、これ私がもらっていい?」
茂は朗らかに笑って首を縦に振る。
「かまわんよ。それよりも涼香、学校に行く時間じゃないかい?」
腕時計を見るといつも家を出る時間より十五分も遅れていた。涼香は蔵の壁に置いていた鞄を持ち、急いで玄関前にある自転車にまたがる。わかってたならもっと早めに言ってよおじいちゃん!
「行ってきまーす!」
後ろで茂が何か言っていたが、振り返らずにただ休まず速くペダルを回すことだけを考える。
再び滝のように汗が流れてくる。
最初のコメントを投稿しよう!