第二十四話 もう一つの風鈴

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 二手に分かれた涼香は李猿を先頭にして目標の楼閣に向かって走っていた。李猿は数千年前のことだがこの宮で暮らしていたこともあり、入り組んだ道を迷うことなく進んでいく。宮内は実に豪華絢爛で、色彩豊かな装飾に目を奪われそうだ。 「それにしても李猿があんなこと想っているなんて知らなかった。私は変なこと言いださないとひやひやしたよ」 「あれは半分本心だ。ああでも言わないと引き下がらないだろう」  突き当りを右折しながら涼香は溜息をついた。少しでも李猿に期待したことを悔いた。そう思ったとき、突然先導していた李猿の動きが止まった。危うく李猿を踏みそうになった涼香は瞬時に泊まろうとして顔を地面にぶつけた。  鼻先が火傷のようにヒリヒリする。涼香は鼻をさすりながら振り返った。 「なんで急に止まるのよ!」  涼香が口をとがらせたが、目の前の李猿は涼香よりもっと奥の方を見つめていた。 「ちょっと話を聞いて……」  涼香の声量が徐々にすぼみ、感嘆の息に変わった。涼香たちはいつの間にか廊下を抜けており、大広間に来ていた。周りも木製から漆黒の大理石と金粉で施されていた。目の前の豪奢な景色に唖然としながら体を反転させると、数段の階段の先が幕で塞がっていた。幕は朱色や黄など様々で冷ややかに揺れている。  奥はどうなっているのか、不思議に思って涼香が歩み寄ろうとすると、中庭で聞こえた風鈴の音が聞こえた。しかも、今度の音は先ほどとは比べ物にならないほど大きく、耳障りな音色だ。  もしかして、その奥にいるのが……。  恐怖で固まった体が強力な力で後ろに引き寄せられた。次の瞬間、閃光が走って先ほど涼香がいた場所に追突した。目の前の炎を見て体の水分が失われていく。あのままあそこにいた私は一瞬で丸焦げになっていたかもしれない。尻もちをついて振り向くと李猿がいた。どうやら彼が間一髪のところで引っ張ってくれたらしい。 「あ、ありがとう」 「気を抜くな。次は俺も庇えんぞ」  李猿の手を借りて立ち上がり、涼香は幕を見つめた。あそこに誰かいる。涼香は持っていた刀を横一文字に振って幕を一気に裁断した。幕が枯れた花のように舞い落ちて、奥の全貌が明らかになった。幕の奥には一つの玉座があり、男が一人座って杯を傾けていた。そして、その両脇には都に来るまでに手合わせしたカメレオンともう一匹、禍々しい斑点模様のあるハチが飛んでいた。ハチと言っても大きさは李猿と同じくらい、そしてお尻から突き出ている針からは毒が垂れて、その部分だけ地面がえぐれている。  この人たちが国を乗っ取った。涼香は切っ先を彼らに向けて臨戦態勢を取る。玉座に座っていた男は盃を隣の卓上に置き、不敵な笑みを浮かべた。 「ようこそ、李の国へ」  彼の左耳にぶら下がっている耳飾りがどす黒い風鈴が不気味な音色を奏でていた。
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