オー・ルヴォアール!

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「糸子の過去は調べてある。それで、実家の場所とテツとの関係を知っていた」 「調べた? なにそれ。英二になんの権限があって調べるのよ?」 「個人的興味だよ」  短く言い切った英二は、咥え煙草に火をつける。後部座席は異様なほどに静か。ちらり、とバックミラーで確認すると、ジョーが怒りと怯えが混じった目で英二を睨んでいた。対するマサは、凪いだ水面のような瞳を、流れゆく景色に向けている。 「真面目に答えてくれないのなら、質問を変える。ジョーとマサとはどういう関係?」 「こいつらは安曇のダチだろ」 「この子達とあんたの関係を訊いているのよ」 「関係なんてねえよ。初対面だ」 「初対面の相手を殴る趣味でもあったの?」  ハンドルを握る左手を睨んで答える。フロントガラスから視線を逸らさない英二が、じらすようにゆっくりと煙を吹かせた。 「糸子、これ以上は詮索すんな」 「馬鹿言わないでよ。わけわかんないままで拉致されて、黙っていろとでも言うの?」 「横暴なのを承知で言う。黙っていろ。事情を知って付き合うのと、知らないままで付き合うのとでは、責任の所在が変わってくる」  馬鹿にするのも大概にして。そう叫びたいのに、声にならない。口が悪いのはいつものことだが、今の英二との会話には温度を感じられない。英二の顔をしたロボットと話している気分だ。
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