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「勝手に触んな」
……いや、勝手もなにも、これは私の身体だし。
そう反論をする前に、両手を上げた英二が素早く立ち上がる。
「いやいや、お熱いねえ。お邪魔みたいだから帰るわ。糸子、スイカちゃんと食べろよ~」
陽気な笑い声が、玄関の向こうに消えて行く。滞在時間はわずか十分。本当、なにをしに来たのだろう。スイカを二玉も置いていった迷惑野郎でしかなかったけど。
ぎしり、と鳴ったベッドのスプリングに薄目を開く。顔の横にはしなやかな左腕。思わず目を逸らしたくなるほど綺麗な顔が、間近に迫っている。
「……なにをしようとしてるの」
「キス」
「駄目に決まってるでしょ」
「なんで」
「……風邪がうつるから」
「じゃあ問題ない」
問題しかないわ。ニキビ一つないつるりとした額を鷲掴みにすれば、更に体重をかけてきた。重力が加勢している分、私の方が断然不利。加えて、こっちは病身だ。
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