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「ちょっと……! いい加減に――」
必死の抵抗も虚しく、唇と唇が重なりそうになった、まさにその瞬間。
修理して尚、覇気のない音しか出せない呼び鈴が、狂ったように連打される。思わず動きを止めて見つめ合った私達の耳に、騒がしい声が届いた。
「糸子! 開けなさいよ! エージさんに聞いたわよ! 安曇が帰ってるんだって!? 内緒にするなんて卑怯じゃない!」
「あずにゃん~! オレだよ、オレ! オレオレ! 会いたかったよ、ばかやろ~。ほら、マサもなにか言えって!」
ガチャガチャと鍵を回す音がする。我に返った朱理が、自前の鍵の存在を思い出したのだろう。第一関門が突破されても、この月の間に入るための第二関門はこちら側から開錠しない限り開かない。それでも、騒がしい奴らは、私達が姿を見せるまで、ドアの向こうで叫び続けるのだろう。
英二。元気になったらヘッドロックの刑に処す。
安曇がうんざりしたように上半身を起こした。
「……うぜえ」
苦々しく零す安曇に、にやりと笑いかける。
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