千華子抄

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千華子抄

 英二から安曇のバイト先を見つけたと連絡があったのは、寒さがいよいよ本格的になった十一月の上旬。英二の指示通り、安曇を伴って訪れた食神坊で、やつは早々に出来上がっていた。 「お前が灰田安曇か。なんだか初めて会った気がしねえなあ」  大量の空のジョッキと、煙草の砂丘を築く英二を、安曇が胡乱げな眼差しで見下ろすのを感じる。長年の友人として、一応のフォローを試みた。 「大丈夫。こんな馬鹿みたいな頭をしているけど、約束は守る男だから」 「ひでえなあ、糸子。お前にだけは馬鹿って言われたくねえぞ」 「うるさいな。あんたが安曇のバイト先を見つけてくれたって言うから、わざわざ本人を連れて来たのよ」 「ああ。その話なら、大将に話をつけておいたぜ」  まさか、バイト先って食神坊(ここ)?  カウンターに目を向ける。シュンエイちゃんは相変わらず韓国ドラマの再放送にご執心。話がついたという大将の姿は見えない。 「安曇。お前、とりあえず厨房に挨拶に行ってこい」  英二からぞんざいに手を振られ、不信感丸出しの顔で安曇が厨房に足を向ける。保護者代わりについて行こうとした私を、すかさず英二が引き止めた。
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