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やっぱり俺は、いなくてもいい存在なのかもしれない。どっちにしろ、こんな西岡歩なんていう存在なんて、Ωとかαとか、そんな生態なんて関係なくなったとしてもいなくていい存在なのかもしれない。
この虚無から抜け出したかったけれど、どうしても無理みたいだよ。
ぼんやりと駅のホームで、俺は蹲りながらそんなことを思う。ボストンバッグに詰められた少ない荷物が、それを物語っているかのように、俺の存在さえもちっぽけな気がする。十二月を過ぎた世の中は、カップルだらけで装飾がやたらに煌めくような世界に作り替えられていく。その狭間で、俺だけが世界からはじき出されたように独りだ、そう思う。
Ωだけの高校、そこに行くためだけに俺は存在しているのかと思うと情けなくなる。親の、先生の進めた高校に行くことしか俺にはできないなんて。どうしても運命には抗えない、そういうことなんだろう。
ホームに新幹線が入ってくる。
高校生なんて、こんな時間には誰一人としていない。俺だけが世間から、全てからも拒絶されているような、そんな気がするのは俺が弱いからだろうか。
寒さで指がかじかんでいる。
ふと、あの時絡めた指を思い出している自分がいた。
あの手を、解かなければ。
俺は、俺達は何か変わったのだろうか?
ホームに駅員の声が響く。
それと、凄い量の風が、俺の前髪を巻き上げて行った。
荷物を肩に乗せる。夢を見続けたいと思ってしまったのは俺の未練でしかないのだろう。遠くで俺の名を呼ぶ声が聴こえる。俺の空耳がその罪の深さを現わしているのか。
それとも…
「西岡っ!」
すごい剣幕で走ってくる手塚。掴まれる肩。そう、あの時と同じ。
息も途切れて、奴の白い吐息が俺の目の前で翻っている。
俺はなにも言葉が出ない。
これは、夢なのか?
「なんで何も言わねえんだよ」
半ば泣き出しそうな手塚。俺は、目を逸らした。
「何で知ってんだよ、質悪ィな」
俺は笑って、奴に言うべくじっと目を見る。
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