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 ―――身体中を触られては、持ち上げられたりしている。自分に触れているこの人間は、昨晩拾ってくれた恩人さんではない。 「怖いよ、助けて」  側にいる恩人さんに縋るように鳴き声を上げると、見守ってくれていた彼が心配そうに寄ってきた。 「大丈夫だよ。ちゃんと、診てもらおうな」  優しい声とともに、頭をそっと撫でられた。  何を言われているのか、よくわからないけれど、少しだけ安心することができた。 「――…ノミやダニは、ほとんどついていないですね。爪は長くて毛並みも良くないですが、捨てられてから間もないと思いますよ」 「そう、ですか……」  頭上で行われる人間たちの会話に、縮こまって様子を窺った。 「ただ、かなり痩せ細っているので、飼われていたとしても、環境は最悪だったと思います。診たところ、まだ八ヶ月くらいで、茶トラの男の子なんですが、人間でいうと十一から十二才くらい。まだまだ子供ではありますが、仔猫というわけではありません」  恩人さんが眉を潜めた。  不安になって、小さく鳴いて声をかけると、優しく身体を撫でられた。 「てっきり、産まれたばかりかと思っていました。おまえ、痩せているだけだったんだな……」 「八ヶ月齢の猫の場合、平均体重は三から四キロなんですが、この子は二.五キロしかありません。ここも、ここも骨が浮き出ているのがわかると思います。逆に、こんな状態で、よく雨の中で生きていたなと感心するくらいです」 「そんなに、痩せていたんですか……。よしよし、よく頑張って生きていたな」  身体を解放された隙に、一目散に恩人さんの手へと縋りついた。 「ふふっ、すっかり懐かれちゃいましたね。ご自分で、飼われるおつもりなんですか?」 「いや、ええ、まあ……。じつは、これまで一度も動物を飼ったことがないのですが……、でも、どうなるのか心配なので、手離すつもりはありません」  声の高い人間が、恩人さんと会話をしている。  恩人さんは声が低いけれど、声が高い人間も怖くはない。 「動物を飼うのは、初めてなんですね。よかったら、当院のホームページやブログをご覧になられてください。猫ちゃんの飼い方や、しつけの仕方も載せてありますので」 「はあ、そうですか。助かります。ぜひ、参考にさせていただきます」 「あと、迷い猫ちゃんの場合もあるので、一応、警察署か保健所に迷子の届出がされていないか、確認されたほうがいいですよ。ただ、ダンボールに入れられていたことと、この子の様子からして、飼育放棄をされた可能性のほうが高いですけど……」 「はい……、確認は、してみます……」  突如、訪れた沈黙。重苦しい空気を感じとって、思わず鳴き声を上げてしまった。 「大丈夫だよ…――」  すぐに落ち着かせるような優しい声とともに、身体をそっと撫でられた。
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