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恩人さんと一緒に生活するようになって、どのくらい経っただろうか。
お腹が空けば、美味しいご飯がもらえる。
前に暮らしていた場所では、お腹が空いてもご飯を見つけられなかったけど、ここでは毎日同じ場所に置いてある。
それに加えて、いつだって快適な湿度と温度が保たれているおかげで、まさに極楽天国な気分だ。
「――…あっ、またやられた! トラ吉!」
ルンルン気分でいると、恩人さんの大きな声が飛んできた。
『トラ吉』と呼ばれるときは、恩人さんが構ってくれるとき。
けれど、たまに不機嫌なオーラを出していることもあるから、呼ばれても易々近づいてはいけないのだ。
「なにか、呼びましたか?」
少し離れた場所から、恩人さんの様子を窺ってみた。
「はぁ……、まいったな……。ほら、トラ吉。怒らないから、こっちへおいで」
「撫でてくれるんですか? ならば、お願いします」
大きな身体を縮こませた恩人さんの元へとすり寄ると、お尻を優しくポンポンと叩かれた。
「それ、好き! もっと!」
甘えた声を出しながらおねだりをすると、望み通りにたくさん撫でてもらえた。
「おまえ、勝手に手術したら、怒るか? おれのこと、嫌いになるか……?」
「頭も、撫ででください」
「はぁ……、ずっとこのままってわけにも、いかないよな……」
恩人さんのお喋りを聞きながら一頻り撫でまわしてもらうと、大大満足になったところで、いつものように冒険に向かったのだった。
***
そんな平穏な日々を送っていたある日、ふと目を覚ましたら、顔の周りに変な物がついていた。
そうだ、そういえば。
今日も、あの大嫌いな怖いところへと連れていかれたんだった……。
「――…恩人さん! これは、一体、なんですか……!? 邪魔なので、取ってください!」
「あっ、こら! ダメだろ? おまえは、手術したばっかりなんだからな」
横を向いても上を向いても、鬱陶しくまとわりついてくる半透明の何か。
「早く、取ってください!」
「トラ吉! まいったな……。嫌がるようだったら、外して様子をみてもいいと言われたけど……。おい、これ、そんなに嫌か? 外すか?」
「見てないで、早く取ってくださいってば! やだ、やだ! これ、嫌いです!」
フラフラと暴れてみせると、ようやく恩人さんが手を差し伸べてくれた。
「大丈夫かな……。とりあえず、様子見だな」
ようやく視界が開けたところで、また変な物をつけられてしまわないようにサッと物陰に隠れた。
「あっ、待て! 手術したところ、舐めたりしたらダメだからな!」
「変な物、こっちに持ってきちゃ、ダメです!」
いつもと様子の違う恩人さんに、易々近づいてはいけないに決まっている。
しばらく、ここから様子を窺うことにした。
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