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「――…もしもし、母さん? うん、もう連れて帰ってきたよ。え? うん、去勢手術だけだから、当日に帰れるらしい」  なんだか身体が疲れ気味で、隠れつつお昼寝をしていると、恩人さんの声が聞こえてきた。 「なにを喋っているんですか?」  ところで、そろそろ身体を撫でてもらいたいのですが。 「おっ、出てきた。うん、脚にスリついてきた。なんだよ、甘えてんのか?」 「頭、ナデナデしてください!」  恩人さんはしゃがみ込むと、望み通りに頭を撫でてくれた。 「傷口は……、大丈夫そうだな。あ、いや、傷口を舐めないようにカラーを首に着けてたんだけどさ。こいつ、どうしても嫌だって言うから取ってやったんだ。まあ、これでとりあえず、部屋の中を汚されずに済むと思うけど。うん、スプレーされて大変だった。いや、本当はもっと早くに去勢しとけばよかったらしいんだけど、こいつめちゃくちゃ痩せてたからさ。体重が増えるまで、できなかったんだよ」 「なに、喋ってるんですか〜〜? お膝に、のせてください」 「おっ、膝にのりたいのか? ほら、おいで。え? うん、まあ……、猫、めちゃくちゃ可愛いよ。こいつが特別なのかもしれないけど、たまに話通じるし、人間の愛くるしいバージョンみたいな感じ」 「だから、何、喋ってるんですか〜〜。このまま、ここでお昼寝したいので、もうちょっと頭撫でていてください」  温かくて、安心する。  ここは、自分だけの特等席。  他の誰にも、譲れません。 「え? 結婚? べつに……。おれには、こいつがいるから寂しくないし。てか、トラ吉がいいっていう相手じゃないと、無理だし。こいつ、おれのこと好きだし……。つまり、トラ吉がいるから結婚は無理ってこと。てか、三五過ぎて一人暮らしで猫飼ってる時点で、諦めてるっての」 「夢心地です……。にゃっ、なんですか! 眠たいんです! 邪魔しないでください!」  気持ちよく、うたた寝に入ろうとしていると、いきなり恩人さんが身体に顔をうずめてきた。  咄嗟に、前足で遮った。 「うおっ……、ひでぇ。顔、殴られた。え? うん、猫って気まぐれなんだよ。機嫌わるいと、いきなり引っ掻かれたりするしさ。まあ、可愛いからいいんだけど」 「もう、邪魔しないでください」  ふたたび身体を丸めると、大好きな温もりを感じつつ、目を閉じた。
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