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 ―――冷たい雨が降りしきるなか、ひっそりと窮屈な箱の中で丸まって震えていた。  お腹が空いて、寒くて、すっごく怖かった。  不意に、頭上に開いた段ボールの隙間から、ふっと差した暗い影とともに、身体を濡らす雨の滴がやんだ。  震えながら顔を上げると、傘をさして覗き込む人間と目が合った。 『―――よかった、生きてる。怖くないよ、大丈夫だから、おいで…――」  弱りきって震える身体では立ち上がれなくて、ぐったりとしていると、ゆっくりと人間の手が伸びてきた。  「怖い」  そう訴えるようにか弱い鳴き声を上げると、そっと指先で優しく身体を撫でられた。 『なんにも、怖くないよ』  毛並みのわるい汚れた身体を、何度も何度も優しく撫でてくれた。  この人間は、怖くない。  威嚇するように鳴いていたのをやめて、その手に縋った。 『よしよし、いい子だね。おいで』  低いけれど優しい声色が聞こえて、身体がそっと持ち上げられた。  びっくりして、ふたたび鳴き声を上げると、すぐに胸元に引き寄せられた。  そして、求めていた温もりに包まれた。  その体温は、冷えきった身体には救いのように感じられて、あまりの夢心地に小さく喉を鳴らしたのだった―――。
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