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7、風ノ宮
〈密視点〉
最近、うちの学校の生徒たちは毎日が賑やかだ。
αしか通えない桐峰学園から、祭の共同開催を持ち掛けられたから。
αが通っているから当然だけど、桐峰に人数はあんまりいない。
うちの学校は一学年200人くらいだけど、桐峰は120人くらい。αの人口を考えたら、十分すごいと思うけど。
お祭りは大好きだけど、宗護が通う桐峰だもん。
生徒会にも入っているって聞いたし、楽しみよりも不安だよなぁ。
今日は五時間目が終わって、あと授業は英語の一つだけ。
教科書をパラパラしながら、平日は中々会えない恋人を思い出す。ヒートの時しかHしてないし、あんまその時の様子は覚えてないんだけど。
頸を噛む番だって、拒んじゃったし。
「どうした?元気無いね。お腹でも減った?ご飯、足りなかった?」
相澤が俺の隣の席に座って話しかけてきた。
「減ってない」
前の席の渡辺は、机からチョコバーを出してきた。
「密、腹減ってたのか?ほら、これやるよ」
「減ってないってば!もらうけど!」
「「もらうのかよ!」」
目の前にお菓子を出されたら、途端にお腹が空くよな。お菓子を出した渡辺が悪い。
バタバタと女子が教室に駆け込むなり、興奮した様子で大声をあげた。
「聞いて聞いて!さっき聞いたんだけど、今日、桐峰の生徒会メンバーが放課後うちの学校に来るらしいよ!」
「βとαはいいけど、Ωの子はヤバイんじゃないの?αの集団なんてさ」
突然もたらされた情報に、教室は大騒ぎだ。
ほんとにヤバイよ。
もう冷や汗が止まらない。授業が終わったら、すぐ「逃げよう」っと。
宗護から逃げるのが終わらないな。
「桐峰の生徒会メンバーって、美形揃いで有名だよね!早く見たいなぁ」
「そこらの芸能人なんか敵わないくらいカッコいいらしいよね。思わず告白する人とかいるかもね」
「あはは、当たって砕けろ的に?」
えぇっ!
もし、宗護に誰かが告白したらどうしよう。
イヤイヤ、俺は宗護の運命の番だし。
大丈夫、だよな。。
「ほら、席につけー」
先生が教室に入ってきた。
ざわざわしていた生徒が、みんな一斉に席に着く。
「情報がもう伝わっているようだが、今日、桐峰の生徒会メンバーがうちの学校にやってくる。メインは放課後の生徒会同士の交流だが、授業も見たいらしく、六時間目は校内の教室を見て回るらしい」
逃げる前に捕まっちゃうじゃん!
絶対、宗護が根回ししてるに違いない気がしてきた。
遠くの教室から、きゃあ!と言う騒めきが聞こえてくる。
だんだん近くなってきたな、と思っていたら、ついにうちの教室にもやってきた。
「お気になさらず続けて下さい」
そう言った男は、明るい茶色い髪が印象的な爽やかな笑顔の美男子だった。会長かな。
5人のαが揃っている様子は、そりゃもう圧巻だった。女の子が一人もいないのはなんでだろ。
宗護もいるっ!
絶対いないはずの恋人が俺の教室にいるなんて緊張するー!早く次の教室に行って欲しい。
「三嶋!問4、答えは?」
「え?えーっと『The traffic accident prevented him from attending the meeting』です」
「正解。ちゃんと聞いてろよ?桐峰の生徒にバカだと思われるぞ?」
横目で宗護を見たら、くすりと笑うのが見えた。
絶対すぐ帰ってやる!
☆
「こら、密。俺に一言も無しに帰っちゃうの?」
「うわっっ!」
授業が終わると同時に教室を飛び出したら、廊下で宗護に捕まってしまった。
髪の匂いを嗅ぐな!
腰に手を回すな!
抱きしめるな!
離れたいのに。宗護の匂いを感じたら途端に離れたくなくなっちゃった。
「密に会いたかった」
「…うん」
なんなんもう。
恥ずかしいから逃げたいのに、腕の中が心地良すぎて逃げられない。
「あれ?密、何してんの?」
隣のクラスの佐藤に見つかった。
「あ、えと」
「密の友達?初めまして。恋人の高山宗護です」
はわわわわ!
言うと思っていたけど、やっぱり言ったな⁉︎
「桐峰の生徒会メンバーが、密の恋人?」
「偶然にね」
絶対、偶然じゃない!
俺の頭を撫でながら、極上の笑顔で宗護は微笑んだ。ご、誤魔化されそう。
「俺はこれから風ノ宮の生徒会と用事があるけど、近くのカフェか図書館で待っててくれると嬉しいな」
「いいけど」
会えて嬉しいのは本当だけど、恥ずかしすぎる。
「高山、そろそろ行くけど大丈夫か?」
「あぁ」
後ろから茶髪の会長様が宗護の肩にポンっと合図すると、俺を見てニッコリ笑った。
「はじめまして。桐峰の生徒会長の嵯峨です。
三嶋密さんだよね。いつも高山が可愛い可愛いってうるさいから、楽しみにしてたんだよ。会えて嬉しいな」
宗護もカッコいいけど、嵯峨さんはめちゃくちゃ眩しい。
宗護が月のオーラなら、この人は太陽みたいだ。
「よ、よろしく」
って、宗護の腕の中でする会話かっ
「あの、宗護、もう離してくれる?」
「うん。じゃあ、また後でね」
俺から離れる腕にホッとしていたら、唇に軽くキスをして宗護は生徒会室に向かって行った。
「すげぇな、密の恋人。さすがαだなー」
佐藤の呟きは、聞こえないふりをした。
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