16人が本棚に入れています
本棚に追加
「宮本結弦さんですね」
葬式の終わりに声をかけられた。
知らない方だったが、なんとなく察しはつく。
喪服を着た中年の女性。その後ろには、喪主の佐倉結音ちゃん。
こうやって見ると彼女は、お母さん似だなと思った。どう見ても父親似だと言われている私には似ても似つかないくらい可愛い。
「はい。そうです」
素直に答える。
「少しお話が……。お時間よろしいですか?」
「……ええ」
「ここでは……あれなのでこちらにどうぞ」
女性は周りの目を気にするように、見まわし私を親族室へ通した。
もうすでに噂になっているから遅い気もするが。でも、きっと公衆の面前で話すような内容ではないことは彼女の纏う空気で理解はできる。
10年前、父が死んだときに私も利用した親族室に入る。
畳特有の匂いが鼻をくすぐり、くしゃみが出そうになったが、ぐっと我慢。
女性は手慣れた様子で長テーブルにあるポットと急須でお茶を三人分注いでいる。きっと長い話になるのだろう。ならばと私は端に寄せてある座布団を三人分持ち上げる。
「あの」
座布団を持ち上げようと腰を屈めたところで声をかけられた。
きれいな可愛らしい声。佐倉結音ちゃんだった。
「私、やりますから」
「え……あーうん、お願い、します」
鋭い眼光。というのか。彼女の目線はその可愛らしい声に似つかわしくなく、強烈に冷たいものだった。思わず年下に敬語を使ってしまった。
座布団から手を放すと、彼女はそれを奪い取るように持ち上げ、そそくさと並べる。お茶を入ったようで「どうぞお座りください」と声をかけられた。
仕方ないのかな、と思う。
母親が乳がんで死んで、父親はまさかの不倫相手で。周りからいろんなこと言われただろうし、聞いただろう。子供らしくない目つきになっても仕方ないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!