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抱きしめた身体は思った以上に小さく、温かく。彼女が生きている人間だということを教えてくれた。
私は結音が落ち着くように背中を摩りながらそのまま話した。
「たしかに、私は佐倉先生に利用されてたのかもしれないけど。正直、私そんなことどうでもいいな」
「はあ!?」
がばっ、と結音が私の体を引き離して勢いよく顔を上げた。
「どうでもいいって……」
「いやあ、だってもう真意は誰にも分からないわけだしさ。佐倉先生も、父さんだって死んでるんだし」
「そりゃあ、そうだけど……。ってか、そういうとこがお人好しだって言ってるんですよ!」
「え、まぁーでも、本当にどうでもいいから。確かに結音の言う通り、私は物事をあまり深く考えないで結音を引き取るって言っちゃったかもしれない。それは反省してる」
河月さんにもその件は怒られたし。
「でも、仕方ないじゃん。嬉しかったんだから」
「嬉しい?」
「うん」
「何が?」
私の言葉の意味が理解できない結音が、心底不思議そうな顔で首を傾げる。そういう泣きはらした顔を子供らしくて可愛いと思いながら、彼女の頭を優しく撫でる。
「家族が、血の繋がっている妹がいるって分かったとき、単純に嬉しかったんだ」
自分は天涯孤独なのだと思っていた。
父が死に、そのあと五年後に生みの母親は病死してしまった。悲しみは時間が癒してくれたけど、どこかぽっかりと穴が開いていた気持ちがあったのは否めない。
けど、違ったのだ。自分は孤独じゃなかった。
「普通にさ、おかえりって言ってくれたり、ただいまって言えるのが嬉しくて。私は結音と家族に慣れればと思ってた。だから私もある意味、結音を利用してたんだよね」
「そんなこと」
「いや、同じことだよ。きっと。何よりどういう状況だったとしても、私は家族が増えるのは嬉しいよ」
だからさ。結音。
私は、多分、君のお母さんにも、お姉ちゃんにも成れないかもしれない。友達っていうのもきっと違う。保護者としては、何か間違っているのかもしれない。それでも――
「それでも、私の家族になってくれると嬉しい」
結音は、しばらく茫然として、そのあとに噴き出すように笑った。
「え、なに?」
なにかそんなに面白いこと言った?
聞いてみるが結音はしばらく笑い続け、笑いながら言った。
「やっぱり、結弦さんって変な人ですよね」
またそれか。
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