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私は隣同士に座った二人の目の前に座る。正座は苦手だが、崩すことができないくらい空気はピリついていて思わず背筋が伸びた。
「わたくし結音さんの未成年後見人。弁護士の加賀充子と申します」
すっと出てきた名刺に少しぎょっとする。
弁護士……なにか大ごとの予感。
一瞬、名刺に見入ってしまったが、気づいて自分の名刺を取り出した。
普段使わないからあるの忘れていた。
「あ、えっと、私は株式会社〇〇の宮本結弦です」
取り出した名刺は角が少しよれていて、しまったと心の中で叫んだ。ちゃんと確認しとけばよかった。
加賀さんは、名刺を受け取ると一瞥する。
「早速ですが、お話というのは遺書についてでして」
「遺書…?」
「こちらです」
加賀さんは一冊のノートを取り出した。
一枚目を捲ると、そこには「遺書」と大きな字で書かれていた。
「こちら、佐倉真奈美さんの遺書になります。どうぞ目を通してください」
「……」
私が見ていいのか。
少し戸惑いを覚えたが、言われた通りノートに目を通す。小学校の先生らしい、お手本のような見やすく綺麗な字だ。
丁寧な字で自分の今の状況、病気の進行、自分の寿命。そして、娘の結音ちゃんのこと。
私は遺書の中でのある一文に釘付けになってしまった。
『以上のことから娘の結音の親権は、結音の姉である宮本結弦に譲渡致します』
「……これってつまり……」
「親権は通常、祖父母、叔父叔母などに譲渡されますが、遺書がある場合は故人の遺志が優先されます」
「えっと……」
「もちろん、あなたには拒否権があります。断ることも出来ますよ」
「……断った場合、親権はどなたに?」
「彼女に他に親戚はいないので、通常ならば児童養護施設に入所となります」
「……児童養護施設」
ちらりと結音ちゃんを見る。
その目は子供らしくなく、濁っているように見えた。
「わかりました。私が引き取ります」
「……え」
「本当ですか……!?」
「あーもちろん、結音ちゃんがよければだけど……知らない奴の家なんかより、児童養護施設の方がいいかもだし……そこは自由だけど」
結音ちゃんは、はっと目を丸くして私をじっと見ていた。まさか了承するとは思わなかったのだろう。
いろいろ思うことはあるが、経緯はどうであれ彼女は私の妹だ。できることなら仲良くしたい。これも本音だ。
「……」
妙に神妙な面持ちで結音ちゃんはどこか遠くを見る。
そして、ゆっくりとその口を言葉が発せられる。
「よ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げられた。
こうして経緯はどうであれ、私は結音と出会った。
宮本結弦。25歳のできごと。
いもうとができました。
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