ここは今日から君の家になるの

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ここは今日から君の家になるの

 弁護士で未成年後見人の加賀さんと相談して、とりあえず一か月の期間限定という形で私たちは同居することになった。その後どうするかは本人次第で、今回はいわゆるトライアル期間というやつ。  加賀さんは優しい人で、いつでも相談してください、と仕事とは別のプライベートの番号まで教えてもらった。  そうこうしている間に手続きを終え、結音ちゃんが私のマンションにやってきたのは初めて出会って二週間が経った頃だった。  中学校の指定鞄を背負い、片手で小さなバッグを持って我が家にやってきた結音ちゃんは少なからず緊張しているようだったし、きっと私はそれ以上に緊張をしている。 「おっ、来たねー! 迷わなかった?」 「……すこし」 「だから迎えに行くって言ったのに」 「迷惑かかりますし」 「あのねぇ……。まぁいいや。どうぞあがって」 「お邪魔します」 「はい。違う」  玄関に入ろうとした結音ちゃんの前に立ちはだかる。きょとんとした結音ちゃんに私はゴホンと咳払い。 「私、今からベタなこと言うけど」 「ベタ……?」 「今回、お試し期間とは言え、ここは今日から君の家になるの。結音ちゃんは家に帰るたびお邪魔しますって言うの?」 「……、そっちのベタか……」 「他になにかあるの?」 「魚のことかと」 「それは淡水魚……ではなく! ほら、なんて言うの?」 「……。ただいま」 「うん、おかえりなさい」  そこでよくやく私ににっこりと笑い、道を開けた。いそいそと結音ちゃんは靴を脱ぎ、玄関に入る。と、小さくため息をついた気がした。 「……今、めんどくさいって思った?」  思わず聞いてしまった。すでにこの時点でうざい。 「……おもってないですよ」    いや、絶対思ったね!  あまりにも無表情だったので、言い返しそうになったが、ぐっと我慢。ここで言い返したらそれこそうざい奴認定される。  出来ることなら結音ちゃんにとってここが帰れる場所になれるようにしたい。  私は彼女のちっとも変わらない表情を見て、そんなことを思う。
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