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「荷物、これだけ?」
部屋に荷物を運びながら聞くと、結音ちゃんは小さく頷く。
「あと、家に置いてきました」
「あーそっか……。もし必要なものあれば取りに行こう。私、車出すし」
彼女はぺこりと小さくお辞儀をする。これは感謝の意を表しているのだろうか。
私は若干、居心地の悪さを感じながら、結音ちゃんが今後使う部屋を指した。
「ここ。この部屋結音ちゃんのだから、自由に使って」
部屋を開けて、結音ちゃんに中に入るよう促す。
部屋の中にはクローゼットと布団のみ用意した。とりあえず必要最低限のもの。最近まで物置部屋となっていた部屋だが急遽あけることとなり、この二週間で掃除を行った。おかげで部屋にあった物たちのほとんどは私の寝室に移動し、現在私の部屋は物置部屋になってしまっている。後日どうにかせねば。
「なにか必要なものがあれば今から買いに行くけど……」
そう聞くと結音ちゃんが小さく首を横に振った。
「いらないです……これで十分」
「え、そう? ベッドとか、本棚とか、鏡とか! あー、パソコンとか?」
自分にとってなくてはならないものをいくつかあげてみる。
けれど、結音ちゃんはその言葉にも首を横に振った。
「家ではずっと布団だったし、本はあまり読まない。鏡は洗面台ので十分だし、パソコンは学校の授業でしか使ったことない」
「そ、そっかぁ……」
趣味とかないんだろうか。
「まあ、なにかあれば言ってね」
これが精一杯の言葉だった。
「ありがとうございます」
「……。そうだ、着いてすぐで悪いけど出かけるけどいい?」
「はい、いってらっしゃい」
「いや、君も行くんだよ」
「……え?」
「もうお昼だし、なにか美味しいもの食べに行こう。引っ越し祝い!」
結音ちゃんはきょとんとした顏で私の顔を見ていた。
「準備してきて。リビングで待ってるね」
まだ茫然としている彼女にそう声をかけて、私は廊下に出る。
まだまだ遠慮している感じがある。どうにかして心を開いてくれないだろうか……。まずは餌付け作戦。近くに美味しいイタリアンの店があるからそこにしよう。見た目も華やかだし、それっぽく見える。それなのに値段はお手頃。
これからは食費も光熱費も何もかもが二人分だ。節約しなければ。けれど、節約しつつも美味しいものを食べる。これは生きる上で大切なことだよね。
自分にそう言い聞かせつつも、私はライスコロッケやシーザーサラダ、ボロネーゼを思い浮かべた。
ああ、おなかがすいたなぁ。
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