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改めて見ると本当、可愛い子だ。
ライスコロッケを口に運びながら、そんな風に思った。おそらくお母さん似の彼女、結音ちゃんはシーザーサラダをリスのようにちびちびと食べている。またその姿が可愛い。私と半分でも血の繋がった子とは思えない。
じろじろと見すぎたのか、結音ちゃんが私の目線に気づいてしまった。
口に入ったシーザーサラダを飲み込んで、明らかに怪訝そうな顔をされた。
「なにか」
「あ、いや! 口に合うかなって」
「ん、美味しいです」
「そっかぁ。私が作ったわけじゃないんだけど」
あはは、なんて笑ってみたけど、どう見ても乾いた声にしかならないし、結音ちゃんの眉間の皺はより一層深まる。
「えーっと、結音ちゃんはお母さん似なのかなぁ…って。私と全然似てないし」
「そうなんですか」
「私、父親そっくりだってよく言われるから」
「……、そうかもしれませんね。姉妹に見えないなら私たちの関係ってどういうふうに見えてるんでしょうね」
始めて結音ちゃんから質問を受けた気がする。
「うーん、友達。にしては年離れ過ぎか。親子……、ってほど離れてないし。うん」
親子はさすがにショックだ。
ないない。うん。ない、はず。
「結弦さんはお父さん似なんですか」
「うん。子供の頃からそっくりだって。まあ、父さんからは母さんに似てるって言われてたけど」
「ああ……、押し付け合いってやつですね」
「そうそう。でも、私も父さんに似てると思う。写真見ると特に」
「自覚あるなら仕方ないですね」
「そうだね。結音ちゃんはお母さんに似て美人だもんなー。うらやましい……」
少しいい感じに会話が続いている気がする。しかも、親のことが話題だ。これは結構仲良くなれているのではないだろうか。
「まあ、確かに私と結弦さん、あんまり似てないですよね。性格も違うみたいだし、姉妹っぽくない」
「え、そうかな。名前、結弦と結音で同じ“結”使ってるし、それだけでも姉妹っぽいなって思ってたんだけど」
「……」
「あ、あれ?」
おかしなことを言ってしまっただろうか。
結音ちゃんは、驚いたような顏でじっと私を見つめている。
「……、浮気相手の子供の名前を一文字とるなんて、お母さんは何考えてたんでしょうね……」
「……」
しまった! おもいっきり地雷を踏んでた。
「そもそも家庭を持つ人を好きになるとか……、本当意味わからない」
そう言う結音ちゃんの表情は悲しそうで、どこか皮肉めいているようにも感じた。
もちろん、結音ちゃんのお母さん、佐倉真奈美がすべて悪いわけではない。私の父……、この場合結音ちゃんの父親にもなるのだが、父さんだって悪いのだ。二人がどういう経緯で不倫関係になったのか、なんてもう知る由なんてないのだし、深堀していいものでもないような気がする。
いいや、この場合一番の犠牲者である結音ちゃんには二人の出会いを知る権利があるのかもしれない。
私はアイスコーヒーを飲んで、口に入っていたライスコロッケをすべて流し込む。
「結音ちゃんは、真奈美先生と父さんがどうやって知り合ったかしりたい?」
「……しりたいです」
「そっか……。億卒でいいなら話そうか」
「え?」
「もしかしたら私は二人の恋のキューピットなのかもしれない」
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