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しかし、同時に瞼が重くなったのを感じたヒークは、必死に意識を繋ぎとめ、少し鉄の味がする口を開く。
「一つだけ…聞かせろ…」
「ああ、一つだけの。もう意識を保つので精一杯じゃろう。山上には上げてやるから安心するがよい」
メラムの尊大な物言いに本来なら悪態の一つはつきたい所だが、そんな余裕はない。なんとか言葉を振り絞り、シンプルながらも最大の謎を口にした。
「お前達は…何者だ」
「そうさな。端的に言おう。記憶にとどめておくがよい」
メラムは平らな胸を張り、後ろで立つ大男を親指で指しながら尊大に言い放った。
「妾の名はメラム。後ろにいる木偶の坊はジャミス。旅する魔法使いとその召使いとでも覚えておけ」
旅する魔法使い。そんなおとぎ話のような話が信じられるか――
元気があればそう言い返すところであったが、薬の効き目か肉体の限界か。その言葉だけが余韻を残したままヒークの視界は暗転した。
~*~
うずくまるように力尽きたヒークを睥睨しながら、メラムとジャミスはしばし顔を見合わせた。
「魔法使い。ざっくり言うね」
「嘘ではないだろう。現に魔法を使っておるしの。屍の中に人の気配があれば嫌でも気づくものよ」
「転落事故、多い、みたいだ」
「人だけでなく魔物もな。全く、ボルゲベルグとやら。柵の取り付けもケチる山の中のクソ田舎と思っておったが、これは好都合じゃの。くっふっふ」
そういうと、メラムは再び棺桶の中に寝転がり、蓋を内側から閉めた。
「後は任せる。その者を担ぎ、妾も引いて山越えせよ」
「無茶言う。やるけど」
暴言に若干の口答えをするジャミスだったが、行動は早かった。ぐったりとしたヒークを肩の上に軽々と担ぎ上げ、棺桶に取り付けられた鎖をもう片手に握り、そのまま引きずって歩き始めた。よく見れば棺桶の底面には小さな車輪が取り付けられており、初めから運搬用であることが覗えた。
穴倉の外に出ると、雨はいつしか肌にまとわりつくような霧雨に変わっていた。そして、傍から見れば地獄からの使者が死者を連れて行くようにしか見えない風体の大男は、雨雲よりもはるか高くそびえ立つ山への一歩を歩み出したのだった。
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