第一章 鳥は空を仰ぎ見る

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その数刻後。シュピーゲル全体が紛糾していた。隧道の入口付近では、ピリシャとタウロンが押し問答をしている。 「フォーゲル副首長!ヒーク探索の許可を!今ならまだ間に合います!」 「…なりません。この雨で足元が悪いのに許すわけにはいきません。雨が上がるのを待ちなさい」 「どうしてですか!なら鳥だ、大型鳥の使用許可をください!ヒークが不在の今、団長代理の権利は僕にある!」 「私が許可したのは坑道入口付近までです。あそこは悪天候だと風向きが悪く、大型鳥も墜落の恐れがあります。これ以上犠牲を出したくはありません」 「ヒークは死んでいない!勝手に決めつけるな!!」 渋るピリシャに激昂するタウロン。その近くでは、タウロンがその悲報を持って飛び込んできた際に真っ先に耳にしたイレンナが顔を抑えて泣いていた。周囲も、あの豪傑が盗賊の捨て身の攻撃で転落したということを聞いて動揺を隠せない。 「な、なんだよ、皆…ヒークが死んだって、本気で思ってるのかよ…?」 「…儂の責任だ」 すると、どこからともなくウルガンが現れ、その顔を歪ませた。 「転落事故は以前からあった。改善の声が挙がっているのも知っていた。だが、ヒークの不要という言葉を鵜呑みにして設置を怠っていた。先だった二人の死も、ヒークも…全ては、儂の…」 「やめろ、父さん!!」 タウロンの反論の声も少し震えている。すると、隧道から一羽の鳥が飛び込んできて、ピリシャの腕に止まった。偵察に出していた「物見鳥」という、フクロウによく似た鳥だ。ピリシャは腕を掲げ、物見鳥と視線を合わせる。すると、物見鳥は腕を蹴って宙に上がり、けたたましく鳴きながら空を旋回した。 「この反応だと侵入者のようです。それも、もう坑道入口にまで来ているようです」 「こんな時に…!皆、急げ!足元には気を付けてな!!」 『いやいや、もう遅いぞ』 隧道の奥から声がしたかと思うと、突然中から黒い影が飛び出した。目をこらすと、黒髪の女を担いだ大男がサーフィンよろしく棺桶に乗って、隧道の坂道を下ってきたからだ。突然の侵入者に周囲は騒然となり、当然ながら目の前にいたタウロンは長斧を構え、その闖入者に向ける。 「何者か!あの盗賊の仲間か!穴を突くとは卑怯者めが!!」 『自分でこの状況を穴と認めてどうする…。戦士なら如何な劣勢であれ虚勢を張らんか、若造』 「なんじゃありゃ!?女の声が棺桶からしてねえか!?」 メラムが喋ったおかげで、周囲の混乱はさらに深まっていく。目の前のタウロンも今にも斬りかからんばかりの状況だ。ジャミスは一つ嘆息すると、棺桶から降り、肩に担いでいたものを静かに下ろした。 「落ち着いて。お届け、物」 「ヒーク!!」 すると、野次馬を掻き分けてイレンナが飛び出し、傷だらけになって目を閉じるヒークの体に抱きこうとした。 「待って。その子、大怪我、してる。触らないで」 「…!」 目の前に立つ大男から、意外にも優しい言葉が出て来たことに二つの意味で驚くイレンナ。その様子を見たタウロンは、ジャミスに声をかけた。 「…もしかして、あなた達が助けてくれたのか?」 「助けてって、言われたから」
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