第一章 鳥は空を仰ぎ見る

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『ま、乗りかかった船というやつじゃ。妾達を質問攻めするのも受け入れるが、まずはそやつを病院にでも連れて行くといい』 そう言いながら、メラムは棺桶を開けて飛び出した。取り巻きは驚いて後ずさり、普段は冷静なピリシャですら少したじろいだ。 「え、ええ。そうさせて頂きます。まずは救助のご協力に感謝を。ありがとうございます、旅の方」 「うむ、よろしい。当然報酬は出るんじゃろうな?」 「それは勿論。ですがこちらでも筋は通させて頂きますので、入国審査は受けて頂きますよ」 「ちぇっ、やはり駄目か」 「しばらく、ここに留まりそう、だね」 こうして、病院施設に運ばれて行くヒークと共に、メラムとジャミスもまた首長の庵に連れていかれたのだった。 そして気づけば雨が上がり、雲間から夕陽が差し込んだ。ヒークの生還に怪しすぎる闖入者と珍事が連発した一日だったが、ボルゲベルグに元の日常が戻りつつあった。 しかし、首長たちはかすかに肌で感じいる物があった。昨今の諸国の情勢を鑑みるに、この先我が国には何か動乱が生じるような気がすると。 だが、その顛末は吹き抜ける風すらも知らぬものである。神がいるという天に近いこの雲裂く峰(ボルゲベルグ)をもってしても、天を見た所でその未来まではわからない。故に人々は、雨と共に訪れた変化の未来に向けて歩み出すのである。
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