第一章 鳥は空を仰ぎ見る

2/12
前へ
/12ページ
次へ
「おお、イドリー団長!今日も楽勝のようだな、大義である!」 門をくぐったヒークを待ち受けていたのは、禿げ頭と140cm程度の身長、そして巌のごとき筋肉の塊のような中年男性だった。ヒークの後ろの武装兵たちは背筋を伸ばして固まったが、ヒークは悠々と歩みを進めた。 「『王様』自らお出迎えとは光栄だね。またピリシャに仕事押し付けて炭鉱に来たのかい」 「うははは!耳が痛いが、適材適所という奴よ。儂は儂の仕事をしにきただけだ」 崖崩れのような嗄れ声で豪快に笑うこの男こそ、ウルガン=ボルゲベルグ。この鉱山一帯を一人で開拓したという、伝説のドワーフの末裔であることを理由に、この国の首長(トップ)となった人物である。保守的な土地柄ということもあってか対外的な政治に疎いが、国民の生活を守ることには固い意志をもって取り組む、まさに国の父とも呼べる存在なのだ。 そんな彼に対して不遜な口を利くヒークにも特にたしなめもせず、ウルガンは歩みを進めてヒークの後ろに控えていた内の一人の小柄な男を肘で小突いた。 「タウロン!おめえも男なら喧嘩に入らんかい!その筋肉は飾りか!」 「喧嘩じゃなくて防衛だよ、『父さん』…。ていうか、あんな狭い道じゃヒーク一人暴れるので精一杯だし…」 そう控えめに返した、身長150cmほどの短い茶髪をした青年。彼の名はタウロン=ボルゲベルグ。王の系譜を引き継ぐ、ウルガンの一人息子。言うなれば王子のようなものである。彼は今心身を鍛える為に自警団に所属し、鍛錬を積み重ねているのだ。 「ケッ!まあいい。タウロン、現場に案内しろ。視察の時間だ」 「え、僕まだフォーゲル副首長に報告が…それにどうせそう言ってただ工場長の真似事したいだけでしょ、全く…あ痛!」 「ゴチャゴチャうるせえんでい!!報告なんてヒークで足りらぁ!」 「はいはいわかったよ。親子喧嘩ならよそでやんなよ」 拳骨を張られたタウロンを見て、ヒークは手を振りながら歩き出す。 戦いが存在理由にして信条の彼女に取っては、相手が年上だろうが男だろうが王だろうが関係ない。強いか弱いか、敵か味方か。それだけしかないのだ。故に敬語や相応の振る舞いは使わないし、使おうとする気もなかった。 「…全く。大っぴらに父さんと言ってる僕が言うのも何だけど。ヒークももう少し言葉遣いなんとかならないのかな…」 「良いんだよ、アイツはあれで。あのくらい跳ね返ってた方が儂は気分がいい」 まさに、天下御免の破天荒。ヒークは今日も肩で風を切って歩いていく。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加